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「よし」
マルーンベアを倒し終え、残るはユーアライゼだけとなっている。わたしは剣をもう一度取り出し、ふと思いついたことを試してみた。
それは、剣身を自分の魔力で覆うこと。
今からユーアライゼを剣で倒す訳だが、風の牢獄の中に閉じ込めたまま攻撃したほうが確実性が増すと思うのだ。その時に、そのまま魔法でできた風の中に剣を突っ込んだりしたら、下手をすると剣が折れる。中の物を粉々にしてしまう風の祝福ほどではないにせよ、風の牢獄だってかなりの力は持っているのだ。用心するに越したことはない。
同一魔力は無効化されるので、わたしが考えているこの方法が成功した場合には、剣が刺さっているところだけが風の牢獄の効果が消されるはずなのである。あくまでも理論上は。
……うん、まぁ、やってみないと分からないよね!
という風に割り切ったわたしは、早速自分の体内を巡る魔力を引き出していく。そして、剣に触れて魔力を沿わせていった。
……こうして見ると、凄い不思議な感じだね。
今、わたしの目には指先から出てくる魔力が見えている。薄い金色の、とろりとした液体のような物体だ。地面に流れ落ちたりしないのかと不安を感じたりもしたけれど、杞憂だったらしい。自分のイメージで動くからだろうか。
ダンジョンでヴォルーゾンと遭遇した時にも言ったけれど、基本的に魔力は性質が近い者にしか見ることができない。「基本的に」というのは、例外が存在するからなのだそうだ。その例外というのが何なのかは、あまり詳しくは知らない。読んだ本には書かれていなかった。
だから、今、この場にいる人達には何も見えていないと思う。傍から見れば、剣をずっと触っている人、という認識になるはずだ。
……んー、それはそれで良くないかも。
そんなことを考えていると、魔力を流し始めてから数十秒で剣が一度だけ光った。そこまで眩しい訳ではなかったし、恐らく魔力によって光っているのだから気にする必要はなかったのだけれど、つい反応して周りの様子を伺ってしまう。
……でも、よく考えると、別にこれって隠したい訳でもないんだよね。やましいことをしてる訳でもないんだし。
魔力を流し終えた後の剣は、薄っすらと輝いていた。わたしの魔力と同じ、薄い金色である。
「……綺麗」
暗いところでは、明かり代わりにもなりそうだ。屋敷に戻ったら少し観察してみたいと思う。時間が経ったら魔力は消えるのか、など気になることも色々とある。
……よし、じゃあ、後はさくっと倒しちゃおう。
さくっと、という表現が果たして魔獣討伐に際して適切なのかは分からないけれども、わたしはユーアライゼを包んでいる風の牢獄を自分の近くへと移動させた。そして、中にいるユーアライゼめがけて剣を突き刺した。
……あれ。外れちゃったかな。
残念ながら、ちょうどぴったり心臓を刺すことはできなかったようだ。それでも、ユーアライゼは無事に息絶えたらしい。
わたしはテスト終了を確認すると、衝立のようにして立てていたアトモスフィアによる空気の壁を消す。これはもう必要ない。その後、未だに発動させたままだった風の牢獄も消す。
風の中で浮かんでいたユーアライゼの亡骸が、重力に従って地面に落ちた。それに伴って、刺さったままだった剣が抜ける。
「……ん」
その瞬間に感じた違和感に、わたしは思わず剣を取り落としそう……というか、放り投げそうになった。すんでのところでそれをこらえ、しっかりと握り直す。
……今、何か入ってきたよね?何?
剣と触れていた右手の手の平から何かがずずっと入り込んできたんだ。そこまで不快だったり痛かったりした訳ではないけれど、正体の分からないものが体の中に入ってきたというのは、結構怖い。
わたしは、まじまじと目の前の剣と自分の手とを見た。
「……お疲れ様でした、レナ様。……レナ様?」
そうしていると、ミューアさんがわたしに労いの声をかけてくれていたことに気づく。顔をあげると、不安そうな表情をしているミューアさんが目に飛び込んできた。わざわざかがんで目線を合わせてくれている。わたしが反応しなかったことを怪訝に思ったのだろう。
わたしは慌てて返事をする。
「……ぁ、すみません、ミューアさん。ちょっと考え事をしていました」
……剣に関しては、また後で考えてみれば良いよね。
持っていた剣を片付け、ミューアさんに向き直る。
「消え……⁉」
「?」
「あ、いえ、何でもありません」
一瞬目を見開いて何かに動揺していたらしいミューアさんだったけれど、わたしが首を傾げると、元の表情に切り替えた。
……あ、剣が消えたことに驚いたのかな?確かに、亜空間って見ようと思わなきゃ見えないもんね。
この前といってもかなり前の話になるが、剣や服を買った後、リーナとユリウスにわたしの魔法を見せた時は、わたしが二人に見せようと思ったから、空間の裂け目が見えたのである。今回は普通に魔法を使っただけなので、ミューアさんにはわたしが剣をしまったのではなく、剣が級に消えたように見えたのだろう。
魔法によって、何もしなくても見えるものと、発動した人が意識しようと思わないと他人には見えないものの二種類があるらしい。何の基準で分けられているのかは分からないけれど。
「おめでとうございます、レナ様。Bランクテスト合格です」
この前まで書いていた分が消えました……。
残念すぎる。




