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魔石に魔力が流されて数秒が経つと、檻の中に何体かの魔獣の姿が見えるようになった。
……え?今さっき、ミューアさん、一体だけって言ってたよね?そういうものなの?
「……⁉」
壁際に立つミューアさんの方に視線をやると、驚いているような表情をしていた。この状態で驚くことといえば、転移されてきた魔獣の数以外にない。ということは、この複数の魔獣は、ミューアさん、ひいてはギルドにとっても想定外のことなのだろう。
そう思えば、驚きが消えていく。驚きが消えるというよりも、同じく驚いている人を見て、冷静になることができたと言った方が正しいかもしれない。
わたしは檻に視線を戻す。中にいるのは全部で五体の魔獣だ。わたしが倒したことのある魔獣はその内二体しかいない。マルーンベアとワームアゴットだ。残りの三体は生では見たことがなかった。
一体目は、薄紫色の蛙のような魔獣。体が大きく、高さが七十センチメートルほどある。
二体目は、艶のある深緑色の毛並みをした魔獣だ。見た目も大きさも猪に似ている。どんな感触なのか、触って確かめてみたい欲求にかられるけれど、それは無視する。
最後の一体は、くすんだ深茶色と赤い目を持つとても太い長さ一メートルほどの大蛇だ。
その特徴をおさえると、それらと一致する魔獣がいないかを脳内で探し始めた。
……あった。思い出したよ。結構前に調べてたんだね。
さほど時間はかからず、数秒でおもいだすことはできたけれど、そこでミューアさんに「レナ様」と声をかけられた。
「はい、何でしょう?」
「申し訳ございません。魔法に何か不具合があったようで、本来よりも多く呼ばれてしまいました。ここでテストを中断することも可能ですが、どうなさいますか?」
今回の「これ」はやはり事故だったようだ。
「えぇ……と、中断したらどうなるんですか?」
今までに例がないことですので、私の一存では何とも申せませんが……、と前置きしてから、ミューアさんはわたしの質問に答えてくれた。
「一度中断してから、また後日都合が合う日にBランクのテストを受け直していただくか、登録証の発行をお急ぎでしたら今日Cランク冒険者として登録させていただくかのどちらかになるのではないかと思います」
「あ、いえ、それを聞きたかった訳ではなくて。いえ、それも大事なんですけれど、僕が聞きたかったのは、僕がここで中断した場合、この魔獣達はどうなるのかということなんです」
そう言いながらわたしは檻の中の魔獣達に目を向ける。彼等は未だに暴れていた。今にも檻の中で戦い始めそうだ。
「ああ、そういう意味でしたら……私達ギルドの方で全て倒させていただきます。本来、希望者の方が途中で棄権した場合にも、魔獣は手の空いている職員で処理することになっておりますので、今回もそうなるかと」
どうやらこの魔獣達には、わたしに狩られるかギルドの人達に倒されるかの二つの未来しかないらしい。
……どっちにしても殺されちゃうんだね。わたしがテストを続けても続けなくても変わらない訳だ。
「それなら、わ……僕がテストとして倒してしまっても良いですか?」
「それはもちろん可能ですが……Bランク魔獣が数体ですよ?同時に相手するには結構厳しいのではないでしょうか?」
心配そうにそう言うミューアさんだけれど、その点に関しては全く問題ない、と思う。
……だって、魔獣が五体だよ?いつもと同じじゃない?むしろ簡単な方か。
普段は―――普段と言っても今回が二回目―――は魔獣の群れを相手にしているのだ。リーナとユリウスにも手伝ってもらってはいるけれど、わたしが一度で倒す魔獣の数は二十を超えるはずだ。
その中にはAランクの魔獣もいたのだから、Bランク魔獣五体くらいであれば、余程油断しなければすぐに倒せると思う。
……一番最初に慈悲の祝福を使うっていう手もあるしね。
やり方ならいくらでもある。問題になりそうなのは、わたしの魔力がどれくらい残っているのか、だ。
今日は朝から移動にも、アンディー達に対しても魔法を使っている。ダンジョンでも魔法重視の戦い方をしてきた。使った魔力量は結構多いと思うのだ。
わたしは軽く目を閉じて、自分の身体の中の魔力の流れを確かめてみた。
……あれ。意外と残ってる気がする。
今のところ、消費したのは全体の三割くらいだろうか。まだまだ魔法を連発しても大丈夫そうである。
「……大丈夫だと思います。テストを続けても良いですか?」
わたしがそう言うと、ミューアさんは戸惑ったような表情で、壁際の二人―――リーナとユリウス―――を見た。
「……お二人は、反対などはなさいませんか?」
変更したばかりですが、また名前を変えるかもしれません。




