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果物を食べ終わり、空いたお皿はリーナが片付けてきてくれた。
「ではお嬢様、そろそろウィリアム様とアルバート様に会いに行きましょうか」
「ええ。……リーナ、ウィリアム様とアルバート様っていうのは、わたしのお兄様のことでいいのよね?何も覚えていない状態で会って大丈夫かしら?」
「そうですね……でも、旦那様がお二人にお嬢様の記憶喪失についてはお伝えしてくださるそうですので、それほど心配なさらなくても大丈夫だと思いますよ」
「そうね」
リーナが扉を開けてくれたので、わたしは部屋の外に出た。
やはりというか何というか、この屋敷の廊下は広かった。天井は部屋と同じように高いし、奥まで続いている。両端には花が活けられた花瓶がスタンドの上に置かれている。
床にはゴミ一つ落ちていない。掃除が行き届いていることが分かる。これほど綺麗な廊下を保つために、どれだけ掃除をしているんだろう、と少し恐ろしくなった。
「お嬢様、こちらです」
ウィリアム様のものなのか、アルバート様のものなのかは分からないけれど、セレスティーナの兄達の部屋は意外と近くにあった。なんと、セレスティーナの部屋の隣である。
兄妹なのだからよく考えてみれば当然なのかもしれないけれど、今の時点で見えているものだけでも部屋の量は多い。なので、わたしやウィリアム様達の使っている部屋がこれほど密集しているのが不思議だった。
わたしがそんなことを考えている間にも、リーナは部屋の扉をノックしていた。
「誰?」
部屋の中から男の子の声がする。小学校低学年くらいの人の変声していない少し高い声だ。ウィリアム様かアルバート様のどちらかだろう。
「リーナです。お嬢様もいらっしゃいます」
「入っていいよ」
「失礼致します」
扉を開けたリーナがわたしに中に入るよう手で促したため、わたしはそれに従った。
部屋の間取りはセレスティーナの部屋と同じで、黒いソファには、二人の男の子が座っていた。
一人は金髪にエメラルドのような明るい黄緑色の瞳、もう一人は金髪碧眼。二人共、部屋に入ってきたわたしのことを見ていた。
後から部屋に入ってきたリーナはわたしの斜め後ろに立った。
「アルバート様もこちらにいらっしゃったのですね」
「ああ。父上から同じ部屋にいるように言われたからな」
アルバート様は金髪碧眼の方の男の子だった。つまり、もう一人の兄であるウィリアム様は、黄緑の瞳の男の子だということである。
「リーナ、父上から事情は聞いたよ。セレスティーナが記憶喪失になったって本当?記憶がないってどの程度なの?」
そう聞いたのはウィリアム様だ。
「お医者様からもお嬢様は記憶喪失だとの診断をいただいております。私のことはもちろん、旦那様のことも、更にはご自身の名前まで覚えていらっしゃいませんでした。ウィリアム様と、アルバート様のことも覚えていらっしゃいません。ですので旦那様がお二人とお会いしお話をするように、とおっしゃられたのです」
リーナがそう言って事情を説明すると、二人は立ち上がってわたしたちに近づいてきた。
セレスティーナとウィリアム様達は身長差が大きく、多分三十センチくらいある。そのため、二人が揃って近づいてくると結構怖いのだ。
リーナの後ろに隠れるかのように下がるわたしを見て、アルバート様が少し目を見張った。ウィリアム様は少し不思議そうな顔をしている気がする。
もちろん、リーナの後ろに隠れるといっても、あからさまに隠れることはしていない。
二人の反応の理由が分からず、首を傾げた。
「……セレスティーナ、僕はウィリアムだ。ウェルストン公爵家長男で、今は九歳だよ」
ウィリアム様が双子の兄らしい。
名前と年を言ったウィリアム様はアルバート様の方を見た。アルバート様はじっとわたしを見つめたまま、動かない。
「……こっちはアルバート。僕の弟だよ。まあ、弟って言っても双子だから年は同じ九歳なんだけどね」
何も言わないアルバート様を見て、ウィリアム様が代わりに彼について教えてくれた。
二人の名前を教えてもらったので、今度はわたしが少し話すことにした。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。