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いつの間にか追いついてきていたリーナとユリウス。リーナの言葉に振り返ったわたしは、本を読んで集めた知識の中から「ヴォルーゾン」に関するものを探す。
「ヴォルーゾンは……確か、水属性の魔獣だったわよね?」
「その通りです。流石ですね」
ヴォルーゾンは、その凶悪な見た目通り、魔獣としての力も強い。そのランクはSランクで、倒すには同じくSランクの冒険者がいなければ難しいほどの強さを持っているのである。
ヴォルーゾンのことを知っていたにも関わらず、名前を教えてもらわなければその名前が分からなかったことには理由がある。ウェルストン公爵家の図書室にあった魔獣に関する本には、絵が描かれている魔獣とそうではない魔獣とで別れていたのだ。ヴォルーゾンはその絵が描かれていない魔獣だった。
外見の特徴として本に書かれていたのは「首が多く、大きい」ということだけだったので、蛇のような姿を見ても、すぐには名前が思い浮かばなかったのである。
……まあ、言い訳でしかないんだけどね。
さて、肝心の戦う上での注意点だ。ヴォルーゾンは再生能力が以上に高く、たいていの傷はすぐに治ってしまうらしい。今ヴォルーゾンにあまり大きなダメージを与えられていないのは恐らくそれが原因だろう。そして、ヴォルーゾンを倒すためには九つある首を全て切断しなければいけないそうだ。
ヴォルーゾンの攻撃方法は主に二つ。
一つ目は、その大きな体を生かして尾を鞭のように使い、自分に攻撃してくる対象――今回の場合はわたし達人間になるだろう――を吹き飛ばしたり潰したりする。吹き飛ばすというのは言葉通りだが、潰すというのは実際にぺしゃんこにする、という意味ではない。
普通の大人であれば、尾の下敷きになったところで気絶するくらいで済むだろう。わたしのような、身体の小さい子供はどうなるか分からないけれど。
そういう面から考えると、危険なのはむしろ吹き飛ばされる方かもしれない。吹き飛ばされる時に身体に尾が当たることでさえ大きなダメージを食らうし、その後も大変だ。場所や飛ばされる時の向きによってはそのまま壁に激突してしまうかもしれない。それはまずい。最悪の場合、死ぬ。風などで勢いを殺すことができれば何とかなるかもしれないけれど、とりあえず尾には注意する必要があるだろう。
続いて二つ目の方法。それは、魔法を使った攻撃だ。ヴォルーゾンは水属性の魔獣で、その中でも上位の魔獣なので、水を作り出すことはもちろん、別の攻撃方法も取ることができる。
それが、体内で生成された毒を水に含ませる、というものである。この毒には即効性があるらしく、含まれた水に触れるだけで肌から体内に取り込まれてしまうのだそうだ。ただし、その効果は麻痺だったり、身体の痺れだったりと軽めだ。更に、数十分で消えるらしい。毒を使って敵を攻撃する魔獣は多いけれど、その中でもヴォルーゾンの毒は弱い方だろう。
それでも、そんな隙を見せる訳にはいかないので、出せれた水は全て避けるに越したことはないだろう。毒が含まれている水は色が普通のものとは変わるらしいので見分けることができると思うけれど、普通の水だったとしても戦闘中に濡れるのは嫌だ。
まあそんな訳で、これがヴォルーゾンの攻撃方法になる訳なのだが、ヴォルーゾンを倒したければこれらの攻撃を避けながら全ての首を切り落とさなければいけないのだ。避けるだけであればまだ簡単だが、首を切る時に剣を使うのであればその高さにまでどうにかして上がらなければいけないだろう。
何気に難しい。流石はSランク、と言ったところだろうか。
……うーん、まあ、何とかなりそう、かな?
ヴォルーゾンをたおすための大まかな動きを考えているわたしを見て、ユリウスが口を開いた。
「セレスティーナ様、もしや、助けに入られるおつもりですか?」
「……ええ、そうよ」
頷いたわたしを見て、リーナが少し眉を寄せる。
「ですが、あの中にはお嬢様を侮辱した者達もいます。お嬢様が危険な目に遭われてまで助けるような価値はないのでは?」
「……まあ確かに、わたしも二人が悪く言われたことに関してはわたしも怒っているけれど……それは別よ。それに……他の男の人達も困っているみたいだし、わたしに助けられるのであれば助けたいわ。Sランクの魔獣に対してわたしなんかが助ける、なんて言うのも烏滸がましいかもしれないけれど……。そしてリーナ、ユリウス。一応もう一度言っておくけれど、今のわたしはレナ、よ!」
そう言ってから、わたしはヴォルーゾンに近づいた。
二人に「わたしはレナだ」と言ったのは、誰に聞かれているか分からないからだ。今は同じ場所に人がいるので、いまのわたしはレナとして男の子らしくしなければいけないだろう。
戦っている男の人達のすぐ後ろにまで来たわたし。ぶつかられることがなさそうな位置に立ってから、わたしは魔法を発動させた。
「風刃」
発生した九つの風の刃が、ヴォルーゾンに迫る。それらが当たる寸前でヴォルーゾンが動いてしまったため、その内の六つの刃は狙いがはずれ、首を傷つけるだけで終わってしまった。けれど、残った三つの刃はきちんと首を捉えた。ゴトン、と大きな音を立てて落ちた三つの首。
急に落ちてきた首に男の人達は驚いていたけれど、わたしは気にせずヴォルーゾンの様子を観察していた。
悲鳴のような鳴き声を上げるヴォルーゾン。そのまま特に大きな変化はないように思われたけれど、数秒後に「それ」は起きた。
地面に落ちていた三つの首が灰のようになって消え、切り落とされたはずの三つの首が元のように戻ったのだ。
「……っ!」




