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「そうか、その手があったか……!」
急に何かに納得しだした彼等。訝しむような視線を向けてしまったわたしは悪くないと思う。誰だって、今まで思いっきり自分に敵意を向けていた相手が静かに自分の言葉を受け入れ始めたら怖くなるだろう。
そんなわたしの心情など置い構いなしに、彼等は再び口を開いた。
「おい、お前!今からダンジョンで俺達と勝負しろ!」
「……はい?」
……本当にどうしたの?何があったの?わたしには全く状況が理解できないんだけど。
「勝負をするとか方法はあったって言ったのはお前だろうが。俺等の力を見せつけてやる」
「流石俺等のリーダーだぜ。調子乗ってるお坊ちゃんに、現実を教えてやらないとなあ?あ、姉ちゃんと兄ちゃんもか」
「はっ、こんなガキに俺たちが負ける訳ねえもんな。結果は今の時点で見えてるさ。あんなでけえ態度を取りやがったこと、後悔させてやる」
わたしが混乱している間にも、彼等は笑いながら話している。その内容に、わたしはまた驚いた。
……本当に実力差が分かっていないんだね。わたしはともかく、この人達確実にリーナとユリウスよりも弱いと思うんだけど。
「おいてめえ、今更この勝負を受けないとか言わねえよなあ?自分が言い出したんだから」
「僕が言い出した訳ではないんですが……リーナ、ユリウス、これ、受けてしまっても大丈夫?」
一応のためにわたしが後ろに立っていた二人にそう尋ねると、彼等は渋い顔をした。
「……まあ、その勝負を受けられる分には特には問題はございませんが」
「レナ様さえよろしいのであれば、私は反対はいたしませんが……」
「……そう。分かった、ありがとう」
本音を言えば勝負を受けることはあまりしたくない。面倒臭いからだ。ただ、この人達は勝負を受けた上で更に勝たないと、大人しく引き下がってくれなさそうな気がする。
……そう考えると、これはもう受けるしかないのかなあ?
しばらく悩んでいたわたしだったが、ようやく結論が出た。
「分かりました。良いですよ。勝負、しましょうか」
わたしの言葉に、三人は笑みを浮かべた。わたしをこてんぱんに負かすことができると考えているのだろう。それは今は別に構わない。
それよりも、わたしには「勝負」をする上で確認しなければいけないことがいくつかあった。その確認のために口を開く。
「勝負はしますが、その前に確認させてもらいたいことがあります。良いですか?」
「ああ?何だぁ?」
「まず、勝負をする場所は冒険者らしくダンジョンで良いですか?」
「……まあ、それもそうだな。良いだろう。というか、てめえはあそこには行ったことあんのか?」
「……ありますよ。まあ、それは別に良いでしょう」
勝負を受けるとわたしが言ったことで少し感情が落ち着いたのだろうか。先程までよりも冷静そうに見える。わたしはそのことに安心しながら二つ目の確認事項を口にした。
……だって、落ち着いてもらわないとまともに話しもできないからね。勝負するって引き受けたからにはちゃんと色々と決めなきゃいけないんだもん。
「次は、勝負の内容です。対戦にしますか?それとも、制限時間を決めた上でその時間内で集められた魔石の量や質で勝敗を決めることにしますか?」
わたし個人としては、後者の方だと良いなあ、と思っている。わたしは彼等の実力や戦法を知らないので、対戦方式にするとなるとその場で判断して動かなければならない。それも実践にはなるため良いと言われればそうだのだが、少し面倒臭い。
今回はリーナとユリウスに彼等から謝罪させるためにもどうにかして勝利を収めたいので、対戦はあまりしたくないのだ。
……魔石集めにする、って言ってくれれば良いんだけど。どうなるかなぁ……。
「はっ、どうせダンジョンに行くなら、魔石を集めるのが一番簡単に決まってるじゃねえか。ここか魔石屋に持ってけば、何の魔獣を狩ったのかがすぐに分かるしな。最終的には売れるし」
「そうですね。では、勝負の内容は魔石集めで良いということで。……それでは移動しましょうか。もう少し細かいことはダンジョンに言ってから決めましょう」
「……ああ、そうだな」
わたしはダンジョンのすぐ近くとこのギルドとを繋ぐ。もうギルドには来たし、場所も覚えたのでこれからはどこからでも簡単に来ることができるようになったのだ。
……ん?あれ、静かになった。
話し声が響いていたギルドが急に静まり返った。そのことに疑問を感じながらもリーナとユリウスの方を向く。
「よし、じゃあリーナ、ユリウス、行きましょう」
「はい」
わたしは目の前の繋ぎ目をくぐって「向こう側」へと移動する。それに続いてリーナとユリウスもこちらに来た。
「貴方達もどうぞ。すぐに移動できますよ」
ギルドの入り口へ向かおうとこちらに背を向けていた三人は、わたしの言葉に振り返る。そして目を大きく見開いた。
「……は?……え?は?」
「……いや待てどういうことだ?」
なかなか混乱しているらしい。口を開けたり開いたりを繰り返している。
「わ……僕の魔法です。ダンジョンまで移動している時間も惜しいので、早くくぐってくれるとありがたいんですが。僕達にはこの後も用事があるので」
ついでに言うと、ここで無駄に時間を消費していたら、帰らなければいけない時間も近づいてしまう。
そう言っても、彼等は驚きから覚めていないようだった。動く様子もなく、ずっと固まっている。
わたしは本日何回目かの溜め息を吐くと、三人を纏めて空間魔法で作った大きな箱に入れる。「箱に入れる」というよりは、彼等を囲むようにして箱を作ったという方が正しいだろうか。箱は透明なので、彼等はそのことにすら気付いていないのかもしれない。
そんなことにはお構いなく、わたしは箱を空間操作で持ち上げた。そして、目の前の空間と空間の繋ぎ目を少しだけ広げて箱をこちら側に運ぶ。
「うわっ?!」
「何だ?!」
更に混乱し始めた彼等を見ながら、わたしは箱を地面につけてから消したのだった。




