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「……はい?」
……あれ、この反応は今日で二回目だよね。そんなに驚くようなこと、わたし、言ったっけ?
「……男装をしたい、ということですか?お嬢様が?」
「ええ。そう言ったわね」
「……理由をお聞きしても?」
「……わたし、女の子じゃない?それに、今はまだ五歳だし、身体も小さいからこのままの格好で冒険者になったとしてもこの前みたいに舐められてしまうと思うのよね。わたしが何か言われるだけであれば全く問題はないのだけれど、それがユリウスとリーナにも及ぶとなれば話は別よ。わたしは二人が何度も、色々な人から貶されるのは許せないの」
前回ダンジョンに行った時、ユリウスとリーナが悪く言われたことをわたしは忘れていない。
わたしがそうされるだけならば気にもしないがわたしのせいで彼等が悪く言われれば、わたしは申し訳なさ過ぎて二人に顔向けできなくなる。
「それに、女の子の姿でいるよりも、男の子の姿で試験を受けた方がきちんとわたしを一人の冒険者希望の人間として見てもらえると思うのよ。……ほら、どうしても、女の子が試験を受けるとなると、その女の子としての強さを基準にされてしまうでしょう?それは嫌なの」
せっかく冒険者になるための試験を受けるのだから、きちんとした冒険者としての強さの基準に当てはめて審査してほしいのだ。
「……お嬢様はすでに十分お強いので、二番目の理由に関しては、そんな心配は無用だと思いますが……。まあ、それがお嬢様の望まれていることなのでしたら、私はご協力いたします」
「わたしは、何かについて心配をすることについては、やりすぎは良くないけれど、ある程度しておくくらいであれば特に問題はないと考えているのよ、リーナ。でも、ありがとう」
男装する時の服については、いつも稽古や運動をしている時に着ているものを着れば良いし、この長い髪については結び方でどうとでもなる。
「そういえば、冒険者になる申請をする時に、魔法の属性は言わなくても良いの?」
「本来ならば言った方が良いのですが、セレスティーナ様はまだ十歳になられていませんからね。分からない、で良いと思いますよ」
「そう。……明日は孤児院に行って皆の属性を調べるつもりだから、ギルドに行くのは明後日になりそうね。属性を調べるには時間がかかるでしょうし……。そういえば、ダンジョンで言っていた魔石に流す魔力量を調節できるようにするための練習は、何か必要なものはある?」
わたしはこれまで孤児院長としての仕事や魔法の練習、勉強をしていたけれど、もし冒険者になれた場合には時間がもっとなくなると思う。それでもそのうちのどれかをやめるつもりは全くないので、そう考えている以上は時間の調節をしっかりして、きちんとやりとげなけばいけないだろうなとは思っている。自分で決めたことだからだ。
……最悪、読書と魔法の練習は夜にすれば良いよね。睡眠時間は何とかなるでしょ。
「必要なのは、魔石だけですね」
「そうなの?それなら、わたしが今持っている魔石で足りる気がするわ。孤児院では百個も使わないと思うから」
「……あの、お嬢様。今思ったのですが、お嬢様はダンジョンで魔獣の解体をなさりましたよね?」
「?……ええ、そうよ、って……あら?わたし、普通に魔石を触ってないかしら?」
リーナに尋ねられてよく考えてみると、わたしは魔獣を解体する時に普通に魔石を思いっきり触っていた。
……あれ?あの時は特に光も出なかったし、魔力が吸われることもなかったよね?なんで?
「そうですよね?私も今ふと思ったんです。何故でしょうか」
「じゃあ、今いったんもう一度魔石に触ってみるわね。リーナ、ユリウス、申し訳ないけれど代わりに取ってもらっても良いかしら?この中に手を入れればすぐ取れるから。それと、もしかしたらまた眩しくなるかもしれないから、目は瞑っておいた方が良いかもしれないわ」
「分かりました」
今の状態でわたしが魔石に触るとどうなるのかが分からないので、入り口だけを開いた状態でリーナとユリウスに出して置いてもらい、二人が目を瞑っていることを確認してから他の魔石に触れないように気をつけながらその内の一つを手に取った。
すると、前回ダンジョンで魔石を取った時とは異なり、魔石には何の変化も見られなかった。
「砂にはならなかった、わね。この前と何か違うことは……」
「……本当ですね」
「前回と今回では何が違うの?場所は関係ないだろうし……」
「セレスティーナ様、もしかすると体内の魔力量の差が原因ではないでしょうか?」
「……え?どういうことかしら?」
ユリウスの言葉に、わたしは首を傾げた。リーナは何かに納得したかのような表情をしている。
「セレスティーナ様はダンジョンで魔石に初めて触った後に、魔獣の群れを倒すために魔法を使われましたよね?そこで魔力を消費したことが原因で、身に纏う魔力の量が減ったのではないでしょうか」
「……確かに、魔法はたくさん使ったけれど……やっぱり、魔力量が関係しているのかしら?それなら、今なら意識をすれば魔力は魔石に流せる、ということ?」
もしそうだとすると、ダンジョンで魔獣の解体をした時に魔石に魔力が吸われなかったことも説明できる。
とにかく、わたしはそのことを確認するために、一度魔力を意図的に魔石に流してみることにしたのだった。
「えーと、多分、こうよね」
自分で意図的に、というのは初めてなので、方法は手探りだ。
身体の中を循環しながら流れている魔力を魔石を持った右手に集めてみる。そして、集まった魔力を押し出すようにして魔石に流す。
「……これは、染まった、と言えるのかしら?」
わたしの手には、またしても砂のようになった魔石だったものがあった。
若干暴走気味(?)な主人公です。




