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「ではお嬢様、湯浴みをしましょうか」
「はい」
湯浴みというのは、お風呂のことだったはず。
わたしは、リーナさんの言葉に頷いて、ベッドから降りた。そして、歩き出した彼女の後に付いていく。
ベッドから出たことで、わたしの、というよりセレスティーナの部屋の全体の様子が見えるようになった。
セレスティーナのものだった部屋は、想像以上に広かった。学校の教室よりも確実に大きい。分かりやすく例えるならば、音楽室や美術室などの特別教室の広さに近い。多分、それよりも広いけれど。学生目線でのものの見方なので、基準が学校の教室になってしまうのは許して欲しい。
今までわたしがいた天蓋付きベッドも人が二人は余裕で寝れるくらい大きかったのだけれど、この部屋が大きいせいで、全体的に眺めると、それほど大きく感じられない。つまり、それだけこの部屋がでかいということである。
天井には立派なシャンデリアが。電気で照らすシャンデリアならば見たことがあるけれど、ここにあるのは確実にろうそくで照らすものだ。本物は初めて見た。
扉が四つあり、そのうちの三つは横一列に並んでいるので、残った一つはリーナさんやお父様が出入りしたときの様子から考えると恐らく出入り口だろう。
出入り口の扉から部屋に入ったとき、左手側に三つの扉がある。そして、それらの扉の前には天蓋ベッドのレースと似たようなピンク色のソファがあり、ローテーブを囲んでいる。
「お嬢様、湯浴みの用意をしてまいりますので、しばらく座ってお待ちください」
リーナさんにそう言われ、ソファに座る。リーナさんは、三つの扉の内の、真ん中の扉を開いて中へ入っていった。
リーナさんを待つ間、わたしは部屋の中を眺めていた。
部屋の一面はガラス張りになっていて、明るい光が差し込んでいる。日本のようにビルなどの視界を遮るものが何も無いので外の景色がよく見える。夜に星を眺めたら綺麗だろうな、と思った。
窓がある部分は、段差があって床が他より少し高くなっている。そこには、猫足の可愛らしいテーブルセットがあった。日光を浴びながらお茶や食事ができそうだ。
部屋の右手側には、本棚と机がある。どちらも木でできていて、極限まで磨かれているのかつやつやだ。
そんな立派な本棚と机があるにもかかわらず、残念なことに本棚にはほぼ何も置かれていない。もったいない。
わたしは大の読書好きで、玲奈として生きていたときには家にもたくさん本があったし、学校や公共の図書館も何回も利用していた。
物語に説明文、料理本から雑誌まで、ジャンルをどんな本でも問わず読んでいたので、この異世界の本というものにとても興味がある。だからこれからは、この家にある本を読み尽くす勢いで大量に読んでいきたいと思う。図書館などで借りてくる場合は、返却しなければいけないので本棚を使うことは難しいかもしれないけれど。
数分後、リーナさんが戻ってきたので、立ち上がってまた後を付いていく。真ん中にある扉を開けてくれたので、中に入った。
そこは、浴室だった。部屋に浴室が付いていることも驚きだが、ここも広い。
天井、床、壁まで大理石に似た素材でできている。両脇の壁には、ここにも扉がある。位置的に考えて、両隣の部屋に繋がっているのだろう。
機会があればそれらの部屋も見てみたいと思う。
手前は洗面所になっていて、鏡や流し台などがある。そして奥側に浴室があった。
浴室と洗面所はガラスの壁で区切られているので開放感がある。これまた広い浴槽には、すでにお湯が張られていた。ふわふわでもこもこな泡が浮いている。つまり、泡風呂になっているのだ。
どうやらわたしはここの浴室を使ってお風呂に入るらしい。部屋に浴室を設置することができる公爵家の財力に、わたしは驚愕したのだった。
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