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わたし達の目の前に現れたのは何十匹もの魔獣だった。ブロクフォーンもいるし、熊のような見た目のものも、他にもとりあえず大量にいる。全員が目をギラギラさせて、よだれを垂らした状態で近付いて来る。
「っユリウス、リーナ、この量をどうにかしてわたし達で捌くわ!怪我には絶対に気をつけて!」
「分かりました、お嬢様。お嬢様もお気をつけください」
「かしこまりました。……これは少し骨が折れそうですね」
近くにいる二人に伝えたいことだけを言うと、わたしは目の前の魔獣達に集中した。
……わたしはリーナとユリウスを信じて自分にできることをするだけ。大丈夫。
一度目を閉じて深呼吸した。その間にも、魔獣は近付いてきている。
わたしは目を開くと、とりあえず一番近くにいた魔獣に魔法を浴びせた。
「風刃!!」
風刃とは風属性の攻撃魔法で、その名の通り風の刃を発生させる魔法だ。込めた魔力の分だけ威力が強まるので、今のような大量の敵に囲まれている時には打ってつけの魔法である。
本当であれば無詠唱でできるのだが、敵を威圧するためにもあえて詠唱ありで発動させてみた。
そして、もう一つ大きな理由がある。それは、魔法を無詠唱で発動させると魔力の消費量が大きく増加することだ。わたしは普段から無詠唱でばんばん魔法を使っているので多分大丈夫だと思うのだが、こんな時に万が一でも魔力不足になったら本当に困る。
魔法はもちろん使えないし、体調不良にもなるらしいので、剣で戦うことすらできなくなるのではないかと思うのだ。
そんなことになったら魔獣達の良い餌だ。リーナ達の足を引っ張ってしまう。それは絶対に阻止せねばならない。
わたしが発生させた風は、目の前にいた魔獣の頭や首、足などを纏めて切り裂いていく。十匹ほどが倒れ伏す。風が当たった魔獣を全部一度で殺すことはできなかったけれど、負傷しているものは多い。動きが鈍くなっていて、隙ばかりだ。
……チャンス!
「もう一回、威力を増やして……風刃」
二回目の発動で、今わたしの目の前に立っている魔獣は初めの半分以下まで減った。
今立っているものは、魔法を使える魔獣達だけだ。多分、上位魔獣なのだろう。その証拠に、わたしが先程一発で殺せたブロクフォーンは一発目の風刃で全て死んでいる。
まだ立っている魔獣達は、わたしが一分も経たないうちに敵のかずを半分以下にしたことに驚いたのだろう、少し下がって唸っている。
わたしはこれ幸いと魔法を使う魔獣への対応策を考えていた。
今わたしの前に立っている魔獣の種類は全部で五種類ほどだ。それぞれ使う魔法の属性が異なるため、その属性に適した戦い方をしなければいけない。
わたしは全力で頭を回転させて目の前の魔獣の特徴を元に魔獣に関する知識の中から彼等の情報を導き出した。
「……えーと、ブートリオ、ワームアゴット、ブロクスーンにミュートガン、それとトルクヴァーンね」
ブートリオは熊のような見た目をした赤い瞳の魔獣だ。水魔法を使う。わたし自身が小さいこともあって、ほとんどの魔獣はわたしより大きく感じるのだが、ブートリオはとりあえず大きい。
ワームアゴットは巨大サソリのようなイメージで、紫色。毒があって身体の表面が硬いという、本当にサソリのような特徴を持つ魔獣だ。火属性の魔法を使うため、身体に火がついても大丈夫というもの凄い強みを持っている。
……ただ、ね。紫色で、サソリってだけでも結構嫌悪感があるんだよね……。ワームアゴットには申し訳ないけど。
ブロクスーンは、狼のような四足獣で、全身がもふもふだ。一度触ってみたいけれど、この状態でできるはずがないのでそれは一旦諦めるとして。
ブロクスーンは牙に毒を持っていて、水魔法を使う。噛まれるとすぐに毒が回って倦怠感などが身体を襲うそうだ。
ちなみに、ワームアゴットの毒は灼熱の痛みを感じるらしい。
ミュートガンは蛇のような見た目をしている。魔法は火属性のものを使い、たいていぼ物理攻撃を無効化してしまう。だから、わたしの風刃はあまり効果がなかったのだ。多少は体力を奪えたようだけれど。
そして、トルクヴァーンはブログフォーンが進化した魔獣だ。見た目はほぼ変わらず、大きさだけが変化している。もちろん、進化して小さくなるはずがなく、大きくなっているのだ。
魔法に関しては先程も言った通り、風属性のものを使うができる。歯の鋭さなどはブログフォーンとあまり変わらないので、この五種類の魔獣の中では一番弱いかもしれない。
……まあ、それだとしても普通に強いんだろうけどね!あくまで「五種類の魔獣の中で」だし!
というのがわたしが倒さなければいけない魔獣なのだが、見事に属性が分散している。ということは、使う魔法の属性を種類に合わせて調整しなければいけないのだ。
どういうことかというと、例えば火属性の魔法を使う魔獣に火魔法を仕掛けてもあまり意味がない。自分の得意分野の属性なので、簡単に仲裁されてしまい、直接的なダメージには繋がらないからだ。
「よし、じゃあ、威力三倍の……氷槍!……これでトルクヴァーンに関しては解決ね」
わたしは、ブログフォーンを殺した時と比べて威力を三倍にした氷槍を放ち、倒れたトルクヴァーンを見て一息吐いた。




