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不安からか声が小さくなっていくわたしを見て、リーナは柔らかく微笑んだ。
「お嬢様、お嬢様は公爵令嬢としての立場を抜いても素晴らしいお方です。私は、お嬢様の侍女以外の仕事を選ぶつもりはありません」
「まあ、そうですね。私も同じ考えです。セレスティーナ様のような方は他にいらっしゃいませんから」
リーナに続いてユリウスまでがそう言ってくれたことが嬉しくて、わたしは無意識のうちに込めていた力を肩から抜く。
「……ありがとう。二人がそう言ってくれて、嬉しいわ」
リーナはわたしの侍女として、前世の記憶が戻って今のわたしになる前からそばで身の回りのことをしてくれていた。
それにユリウスはまだ知り合ってから日が浅いけれど、剣術の稽古など、色々なところで沢山協力してもらっている。
二人共、今のわたしにはなくてはならない存在だ。
……いやまあ、別にお風呂とか、そういう日常生活ならリーナがいなくてもできるんだけど、ドレスは未だに自分だけで着るのは大変だし、何よりリーナはわたしのお姉ちゃんみたいな存在だからね。
わたしがそう伝えると、二人は嬉しそうに微笑んでくれた。
「セレスティーナ様、この辺りは魔獣が出て来るようになります。何かが近付いてきた場合には私がお教えしますが、くれぐれにご注意ください」
「分かったわ」
しばらく進んで行くと人がどんどん減っていき、今ではもう誰もいなくなった。
少し不思議に思いながら、ユリウスの言葉に頷く。
更に数分が経過すると、わたしの耳にわたし達の足音とは異なる何かの音が聞こえてきた。どんどんと近づいて来る。
「……何の音かしら?」
わたしがそう言うと、リーナとユリウスは驚いたようにこちらを見た。
その反応の理由が分からず、わたしが首を傾げたその時。
わたしのことを見ているユリウスの背後から、一匹の魔獣が走って寄ってきていた。
「……っユリウス、危ない!」
そう言うと同時に、わたしは水魔法でいくつもの鋭い氷を発生させ、その全てを礫のようにして上空から魔獣に打ち付けた。
氷に身体を貫かれた瞬間、魔獣は「ギャウッ!」と悲鳴をあげる。そして倒れると、身体中から血を流し、やがて動かなくなった。
わたしの声を聞いて振り向いていたユリウスは、地面に横たわる魔獣に近付いていった。
「……息がない……」
それはそうだ。だってわたしが殺したのだから。
わたしは、魔獣のそばまで行くと、しゃがんで合掌した。
自分達に身を守るためだったとはいえ、わたしが一つの命を奪ってしまったことは確かで。
そのことについて後悔はしていないし、わたしはこれからも大切な人や自分を守るためであれば迷いなく相手を殺すだろう。それだけでなく、今日のように魔石を採りたいからなどという利己的な理由でも動物を傷つけるだろう。その中には魔獣だけでなく、人も含まれているかもしれない。
この世の中が、弱い者が強い者に倒される、弱肉強食という概念の下で成り立っているのは知っている。現にわたしが食事をする時だって、他の動物から命をもらっているのだ。
けれど、わたしは彼等への敬意や感謝、謝罪の気持ちを忘れずに、その命の分まで責任を持って生きていきたいと思う。
そう考えながらわたしが黙祷していると、ユリウスが不思議そうに言った。
「セレスティーナ様、その両手を合わせるのはどんなことを意味しているのですか?」
「えーと、この、手を合わせる動作は合掌というの。何かに祈りを捧げる時にするわね。そして、わたしがしていたのは黙祷。死んでしまったものの霊や神様に対して祈るのよ。わたしの場合、殺してしまってごめんなさい、心安らかに眠ってください……って感じかしら。……ほら、誰かが亡くなった時にしない?」
わたしの言葉を聞いたリーナとユリウスが顔を見合わせる。
「確かに、祖先や親しい人が亡くなった際に祈ることはします。ですが、セレスティーナ様のように、仕留めた魔獣や敵に対して祈ることは珍しいですね」
「……そうなのね。での他にする人がいなくとみわたしはするわ。この子が死んでしまったのはわたしのせいなのだから。……まあでも、ダンジョンを出る時でも良いかもしれないわね」
今からたくさんの魔獣を狩ると思うので、その都度やっていたら時間がかかってしまう。本来ならそうしてでもするべきなのかもしれないが、時間もないし、リーナ達を待たせる訳にもいかないだろう。
「素晴らしいお考えだと思います。その時には私もご一緒させてくださいませんか?」
「もちろんよ、リーナ」
ユリウスも一緒にしてくれるそうだ。
この世界では普通ではないだろうわたしの考えを受け入れてくれて、更にはそれに嫌な顔せず付き合ってくれる。
……ああ、やっぱり二人とも、凄い良い人だなあ。出会えて良かった。




