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「ちょ、ちょっとリーナ⁈何してるの、っていうかその短剣どこから出したの⁈」


 目が据わった状態のリーナが、二本目となる短剣をどこからともなく取り出して投げようとしていた。


 そして、男性二人組は、少しとはいえ舐めていた女性から突然ナイフを投げられ、顔が真っ青になっていた。


「お嬢様のことを侮辱した屑達の息の根を止めてやろうと思いまして」

「ゴミ屑って……。とにかく落ち着いてちょうだい」

「貴女が言いたいことは理解できますが、こんなところで何をするつもりですか?」

「理解できるのであれば止めずにいるべきなのでは?」

「……お願い、ユリウスも黙っていてちょうだい」


 丁寧ではあるけれど言葉が崩れているリーナと、彼女を止めようとしているのか止める気がないのかどちらか分からないユリウス。


 わたしはとりあえずリーナを落ち着かせようと頑張って説得する。


「わたしは気にしていないから、その剣をしまって」

「当然です。もしあの者達の品のない言葉でお嬢様が傷つかれてなどいたら、脅すだけでは終われません」

「貴女にとってはあれが脅しだったのね⁈」


 彼等の髪を道連れにして、あと数ミリで刃が当たるというところで投げておきながら、リーナはそれを脅しだと言う。


「それでも、お願い、剣を片付けて。リーナには人を傷つけてほしくないの」


 わたしは、誰かが自分のことを馬鹿にしていようが貶していようが、正直言ってどうでも良い。


 知っている人から悪く言われたら流石に傷つきはするけれど、ただそれだけだ。


「……分かりました。お嬢様がそこまで仰るのであれば、今回は目を瞑りましょう」


 リーナは壁の近くで呆然としている男性達に一度だけ鋭い視線を向けると、わたしの方に向き直っていつも通りの笑顔を浮かべた。


 わたしも微笑み返し、そして口を開いた。


「リーナがわたしのために怒ってくれたことは嬉しかったわ。ありがとう」


 リーナも「女性だから役に立たない」などというくだらない理由で馬鹿にされていた。それでも彼女は自分が悪く言われたから、ではなくわたしへの言葉に怒ってくれたのだ。


 そのことは嬉しかった。


 お礼を言ったわたしは、リーナの短剣が突き刺さっている方に歩いていく。


 そうすれば当然、男性達にも近付いていくことになる訳で。


 彼等は地面に座り込んだままわたしのことを見上げていた。


 そんな彼等のことは気にせず、わたしは壁の剣に手をかける。


 短剣は壁に深く刺さっていたけれど、意外と簡単に抜けた。


 その理由は、わたしが短剣の奥にある土を魔法で操って、短剣を押し出すように動かしたからである。


 壁もある意味土なので、できるかなー、と思っていたが普通に抜けて安心する。


「……大丈夫ですか?」


 わたしは微動だにせずわたしのことを凝視していた目の前の男性達を見る。


 あまりにも何も言わない上に動きもしないので、少し心配になったのだ。



しばらくして、彼等はゆっくりと頷いた。


「……そうですか。それなら良かったです。怖い思いをさせてしまってごめんなさい」

「……っほ、本当だよ!怪我してたかもしれないんだぞ⁈もしそうなっていたらどうするつもりだったん……」

「ですが」


 わたしが謝罪の言葉を口にした途端、怒鳴り始めた彼等。


 わたしは、唾が飛んでこないように風の盾を張ってから、その言葉を遮った。


 風の盾はこんな用途で使うようなものではないと思うけれど、そんなことは気にしない。


 そして、とびっきりの作り笑顔で思ったことを言う。


「……人を見かけで判断するのはお勧めしません。この世には、貴方達よりももっと強い人達はたくさんいるんですから、次はどうなるか分かりませんよ?」

「な……」


 わたしだってリーナとユリウスが理不尽に侮辱されたことに対して怒っているのだ。彼等はわたしの我儘に付き合ってくれる優しい人達で、強さの面から考えてもこの人達よりも彼等の方が強いと思う。


 わたしのことだけならば、いくらでも好きに言えば良いと思う。


 けれど、我儘なわたしは、わたしの身の回りにいる大切な人達が傷つけられることはもちろん、悪く言われることですら許せない。


 今回の場合、リーナによって「脅されて」いたし、彼等にリーナとユリウスを侮辱する意図があったのかがはっきりとは分かっていない。


 だから今はわたしからはこれ以上は何も言わないけれど、ないとは思うがもしこれから彼等がまた何かわたしの大切な人達を傷つける言葉を吐いたのならば、今度は何の遠慮もなく同レベルの仕返しをするだろう。


 わたしは言いたいことだけ告げると、リーナ達の待つところに戻り、持っていた短剣を返した。

 そして、目的地へと行くべく歩き出した。


 その途中で、わたしは気になっていたことを尋ねる。


「リーナは、あの武器をどこから出したの?……と言うより、それ以前にいつも持ち歩いているのかしら?」

「しまっていたのは服の中です。お嬢様をどんなところでもお守りするためには、武器は手放せませんからね」

「そうなのね。……もしかして、リーナは強かったりする?」

「強いかというのは人によって変わりますので、はっきりとは言えませんが……ユリウスよりは弱いですよ」

「確かに剣術ではかろうじて彼女に勝てますが、手数は確実にリーナの方が多いですからね。本気で戦ったら、負けるのは私だと思いますよ」

「そんなことありませんよ」


 苦笑しながら告げられたユリウスの言葉にわたしは心の中で驚愕する。


 ユリウスでも本気での戦いでは勝てないのなら、優秀な侍女でありながらも、リーナは本当に強いのだろう。


 先程考えた、「リーナが危ない目に遭った時、わたしにできることなら何でもして助けたい」というのはリーナ相手では不要な心配だったようだ。


 まず、多分リーナでも窮地に陥るのであれば、もうそれはわたしごときではどうにもできないと思う。


 今のわたしでは助けにすらなれないと思うので、いつかリーナを超えることができるよう、これからも更に頑張っていきたいと思う。


 そんなことを考えていると、ある一つの疑問が浮かび上がってきた。


……あれ?何でリーナみたいな完璧な凄い人がわたしなんかの侍女をやってくれているんだろう?


 リーナならば、わたしの侍女にならなくてももっと仕事を選べるだろう。それなのに何故、わたしの侍女をしてくれているのだろうか。


「……あ、あの、リーナ。リーナは、今のままの状態で良いの?」

「お嬢様、どういう意味でしょう?」

「リーナは強くて侍女としての仕事ぶりも完璧で……もっと仕事の選択肢があるでしょう?その、わたしのような公爵家の令嬢という立場しかない人間のもとで働いていて、もっとやりたいことがあるんじゃないかしら?リーナだけではなくて、ユリウスも。……も、もちろん、リーナとユリウスの主人として恥じないようにはする、つもり、なのだけれど……」


いつも読んでくださり、ありがとうございます。

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