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昨日五歳になったわたしは、現在、ユリウス、リーナと一緒にダンジョンに来ていた。
もちろん、孤児院の皆と属性検査をする時の魔石を集めるためである。
本当は来る予定でなかったリーナがここにいるのは、彼女が「お嬢様の身の回りのお世話は、どんな場所でも私がします!」と言ったからだ。
初めは危ないかもしれないからと止めていたが、その言葉にむしろついていくという決心が固まってしまったらしいリーナ。
……今のわたしには、リーナを止める技術はありませんでした。
そんなリーナは、サンドイッチなどの軽食などを持ってきてくれている。
そしてわたしは、ユリウスから渡されたフードつきぼマントを被っている。「これは絶対にお付けください」という言葉に、わたしは反対する理由も見つからず、素直に受け取ったのだ。
「初めて来たからちょっと緊張するわね」
「セレスティーナ様、本日は上階層での魔獣狩りをしようと考えています。あまり強力な魔獣はいないと思いますが、くれぐれもご注意ください」
「お嬢様、絶対に、無理はなさらないでくださいね」
「……ええ、気をつけるわ」
「……気をつける、ではなくお約束していただきたいのですが……」
移動中からずっと言われていたことに返事を返したのだが、リーナはわたしの「気をつける」と言う言葉がお気に召さないらしい。
わたしとしては、無理をするつもりはないけれど、もし誰かが、例えばリーナ、それにないとは思うけれどユリウスなどが危ない目に遭っているところに遭遇したら、わたしは全力で助けに入る自信がある。
わたしの力が助けになるかという問題は発するけれど、魔法とユリウスとの稽古で身につけた剣術を掛け合わせれば、それなりの時間稼ぎにはなると思うのだ。
その間に逃げてもらえれば御の字。そうでなくても、危機から脱した瞬間にその場から離脱すれば問題はない。
……わたしに光魔法が使えれば良いんだけどなあ。試してみたことないから分かんないんだよね。
光魔法にはいろいろな種類があるのだが、最も重要かつ有名なのは、傷や病を治すという治癒魔法で、この魔法の存在があるからこそ光属性に適性を持つ人は大切に扱われていると言っても過言ではない。
……うーん、今日魔石を採れたら、孤児院に持っていく分とは別にわたしだけで適性検査をしてみるとか?そうすれば、ひとまずわたしの属性は分かるよね。
そうすればわたしに何の魔法が使えるのかはっきり分かる。まだ試したことのなかった光魔法への適性があるかどうかも判明するのだ。
もし適性がなかった場合は諦められるし、反対に、適性があった場合には光魔法を使って人を助けることができる。
……うん、良いかも。そうしよう。
話を戻そう。
魔獣は雑食で、人間すらも食べてしまうものがいる。弱い魔獣であれば食べられる前に殺すことができるけれど、相手が強かった場合には、それは難しい。
だから、そんな魔獣に狙われて危険な目に遭っている時には、第三者の手を借りるしかないのだ。
自分の力で何とかできればそれが一番なのだけれど、そうも言っていられない状況というものが存在するのは事実で。
だから、わたしは自分が多少の怪我を負ってしまったとしても、それで誰かを救えるのであれば絶対に動くと思う。
わたしは破ってしまうかもしれないことを約束するのは嫌なので、そんな理由でリーナからの「絶対に無理をしない」という言葉には約束できないのだ。
「約束はできないけれど、出来る限り気をつけるわよ?わたしだって痛かったり人が傷ついたりするのは嫌だもの」
そう言って、わたしたちは入り口からダンジョンに足を踏み入れた。
ダンジョンは、洞窟のような作りになっていて、中が結構暗い。所々にろうそくがあるから周りが見えないということはないけれど、外の明るい状態から急に暗いところに入ったわたしは、目を暗闇に慣らすために目を閉じた。
しばらくしてから目を開くと、先程よりは中の様子が見やすくなっていた。
そのことに安心しながら歩き出す。小さいはずの足音が大きく反響して、大きくなって聞こえた。
わたし達の周りには意外と多くの人がいた。何人かでグループを組んでいる人達や、いかにも冒険者、といったような服装をしている人。
服装もバラバラな彼等だけれど、女性はあまりいない。ほとんどが男性だった。
その彼等は皆わたし達の方に視線を向けている。
何人かの人は、隣にいる仲間らしき人の耳に口を寄せて何かを話していた。
……でも、ねえ。ほぼ全部聞こえてるんだよなあ。
先程も言った通りここは小さな音でも響いて聞こえるだから、内緒話をしているつもりでも、普通にある程度は聞こえてしまうのだ。
そして気になる話の内容がこちら。
「なあおい、あのパーティー、人数少なくねえか?あんなんじゃ、すぐにやられちまうだろ」
「いやまずそれ以前に、三人中一人がガキでもう一人は女。顔は綺麗だが、ここでは役に立ちゃしねえだろ。更には唯一の男もひょろひょろときた。あいつら、ここに何しにきたんだろうな?」
「ガキの方は顔がフードで隠れてるから見えねえが、あんな小せえ奴がいたら絶対に足引っ張って全滅するだろうよ」
「あの大きさなら一瞬で食われるだろうな」
などなど、結構貶されていた。
この人達がユリウスの剣術を見たら驚くんだろうなあなどと思いながら特に気にせず歩いていると、わたしの斜め後ろから一本の短剣が飛んでいった。
……ん?!
その剣は彼等の顔すれすれの位置の壁に突き刺さり、髪が一筋はらはらと落ちていく。
わたしは慌てて振り向いた。




