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このまま話を聞いていても内容を理解できそうになかったので、わたしは食事を進めることにした。
いくつかのケーキを食べていく。
全てのケーキがすでに一口サイズになっているけれど、わたしの口にはそれでも大きい。口を大きく広げれば食べれるかもしれないけれど、殿下方の前でそんなことをする訳にはいかないにで、フォークで半分に切ってから食べていった。
「……セレスティーナさんは美味しそうに食べますね」
最後の一個のケーキを食べていた時、ルーカス様の言葉で皆様に見られていたことに気づいた。
オーティン様もだったけれど、どうして皆さんわたしが食べているところをわざわざ見るのだろうか。特に食べ方が綺麗な訳でもないのに。
そんなことを思いながら最後の一口を食べる。
「確かにね。今さっき、俺が見てた時にも可愛いと思った」
「……っ⁈」
オーティン様の言葉にケーキが喉に詰まりそうになった。顔が熱い。
前世でも可愛いなどとお父さんからしか言われていなかったし、今世で前世を思い出してからもお父様からの褒め言葉はスルーしていたので、わたしは自分のことについて褒められことに免疫がない。
……うう、絶対に今わたし、顔が赤いよ……。
わたしの反応に驚いたような表情をしている目の前の皆様。
その空気に耐えきれなくなってしまったわたしは、この場から逃げ出すことにした。
ケーキを食べ終わっていて良かったと思う。そうでなければすぐにはこの場から離れられなかった。
「……っわ、わたし、お父様とお話ししてきます!」
……おかしいな。わたし、前世の記憶があって殿下方よりも精神年齢は上のはずなんだけど……。まあ、兄様も皆様も年齢よりも大人びてはいるから、仕方がないのかな?
貴族である皆様は小さい頃から教育されるため、前世の高校生並みの落ち着きがあるのだ。
でも、どうも今日はわたしがこの五歳という年齢に相応しいくらいの感覚に引きずられているような気がする。何故か感情の起伏が激しい。
……パーティーが始まった時にも泣いちゃったし……。何でだろう。
そんな小さな疑問がわたしの中で芽生える。けれど、すぐに消えていった。
「うーん、お父様は叔父様とお話しされてるから、割り込むのもかえって失礼かしら」
とはいえ、今は殿下方と普通に会話できる自信がない。せめて、もう少しして感情が落ち着くまで待ちたかった。
……気持ちを落ち着かせるためにはどうすれば良いんだろう。ピアノを弾いてみるとか?
確か、この屋敷には音楽室があったはずだ。これまでは行ったことがなかったけれど、行ってみても良いかもしれない。
パーティーの主役がいなくなるちいうのはどうかと思わなくもない。けれど、背に腹は変えられない。一人でぽつんといるよりは良いだろう。
「お父様、屋敷の中に入っていても良いですか?」
「ん?ああ、セレナ。勿論だよ。戻ってきたくなったら出てくると良い。ここは少し暑いしね」
確かに今日は少し気温が高い。わたしはドレスを着ているのであまり感じなかったけれど、暑さを感じさせずに過ごしているお父様や叔父様、兄様達は凄いなと思った。
お父様からの許可は得たので、わたしは屋敷の中に入り、まずは料理場に向かった。
「ヴァイスはいるかしら?」
「あ、お嬢様。料理長はいますよ」
ヴァイスを呼んでもらい、今日のパーティーで残された料理がどうなるのかを教えてもらう。
それらの料理は、夕食として使用人に決まった分だけ配られた後、まだ残っていれば捨てられるらしい。
「ヴァイス、もし良かったら最後まで余っていたものをわたしにくれないかしら?」
「それは良いが……何に使うんだ?」
「ふふっ、それは秘密でお願いするわ。……でも、料理はいつぐらいまでは保つのかしら?」
「うーん、この気温だと、保管庫でも2日だろうな。それ以降は、多分食べない方が良い」
保管庫というのはその名の通り食材などを保管しておく、冷蔵庫のようなものだ。けれど、一つの部屋が丸ごと使われているので、規模は大きい。
受け取ってさえしまえば、あとは「収納」して時間を止めておくだけで良い。
「……そう。分かったわ。それなら、今日の夜に受け取りに来させてもらうわね。何時くらいだとちょうど良いの?」
「九時過ぎぐらいだと助かるが……お嬢様はその時間でも大丈夫なのか?」
「それくらいなら大丈夫よ。いつも起きている時間だもの。
……それじゃあ、ここにまた来るわね」
「分かった。待ってる」
「ええ。それじゃあ、わたしは行くわね。時間を取ってくれてありがとう」
料理場から出たわたしは、そのまま音楽室に行った。
「……初めて来たけれど、意外と広いのね。ちゃんとピアノもあるわ」
早速わたしは椅子に座って、懐かしい気持ちで鍵盤に指を置いた。
今更だけれど、この世界のピアノも鍵盤と対応する音は同じだった。
「良かった。これなら弾けそうだわ」
両手を鍵盤に乗せて、前世で弾いていた曲を弾く。
懐かしさからか、笑みが浮かぶと同時に、前世のことを思い出して寂しさや先に死んでしまったことに対するお父さんへの申し訳なさなども感じる。そのせいか、わたしの目尻にはまた涙が溜まってきてしまった。
ピアノを弾いていた手が止まる。
「……お、とう、っさ……。先に死んじゃ……って、ごめんね……」
わたしは小さな声で泣く。そして、しばらくしてから手で涙を拭った。
「……そろそろ戻ろうかな。また今度来よう」
わたしは立ち上がって、椅子をしまう。
そして、音楽室を出て庭へと戻ったのだった。




