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3


「いや、セレナが謝ることは何も無いよ。……リーナ、念のために医者を呼んできてくれるか」

「かしこまりました」


 男性は、私の言葉に眉を寄せながらも、そう言ってくれた。そして、リーナさんは男性の言葉に従って再び部屋から出て行った。


 その様子を見て彼の優しさを信じた私は、先程から気になっていたことを尋ねてみることにした。


「あの、わたしの名前とここはどこなのかを教えていただけませんか?全く分からなくて……。それと、できれば貴方の名前も……」

「もちろん。君の名前はセレスティーナ・ウェルストン。ウェルストン公爵家の一人娘で、五つ年上の双子の兄がいるんだ」

「こう、しゃく……?」


 公爵。この単語が出たことによって、ここが地球ではないという説が一歩現実に近付いた。


 それよりわたしは、思ったよりもすごい立場にいたようだ。公爵家といえば、基本的に地位が高いからだ。公爵家の娘ならば、「お嬢様」呼びをされるのも当たり前なのかもしれない。わたしからすれば、結構恥ずかしいけれど。


「そう。そして私は君の父親だ。いつも君からはお父様、と呼ばれていた。現ウェルストン公爵家当主でもあるね。そして、今いるここはウェルストン公爵家の領地にある屋敷だよ」

「そうなんですね」

「ああ。……他に私に聞きたいことはあるかい?」

「いえ、大丈夫です。教えてくれて、ありがとうございました」


 セレスティーナという聞き慣れない名前と、公爵という身分制度から考えると、わたしはやはり歩道橋から落ちたことで一度死んで、この地球とは異なるこの世界でセレスティーナとして生まれ変わったのではないだろうか。


 今わたしは四歳だということだから、これまでは完全にセレスティーナとして暮らしていたけれど、今回、何らかのきっかけがあって野中玲奈として日本で生きていた記憶を思い出したのだと思う。


 なんとわたしは、異世界に転生していたのだった。


******


 リーナが出て行ってから十数分後。お医者さんが部屋まで来てくれた。


 お医者さんによって、わたしは記憶喪失という診断が下された。結果的には間違ってはいないし、それ以外に説明のしようがない。けれど、前世の記憶が戻った訳だから、記憶喪失とは少し違うんじゃないかな、と思ってしまうのは仕方のないことなのだろう。


 診断を終えたお医者さんがリーナさんに連れられて部屋から出て行った。


 そしてリーナさんが部屋へ戻ってくると、お父様が確認するかのように私に話しかけてきた。


「セレナ、君は2人の兄のことも覚えていないんだよね?」

「はい」

「それなら、一度会って話した方が良いだろう。リーナ、セレナの用意はどれくらいで終わる?」


 わたしの返事を聞いて、お父様はリーナさんにそう尋ねた。


 リーナさんは、特に悩むこともなく答える。


「急げば一時間ほどで終わるかと思われます」

「そうか。……それなら、急がなくて良いから、セレナの用意を頼む。その後、ウィリアムとアルバートの部屋に行って、セレナと二人を会わせてやってくれ」

「かしこまりました」


 ウィリアムとアルバートという名前の人達が、双子だというわたしの兄なのだろう。


「あの二人には、誰かから事情を伝えさせておくから、頼んだぞ。……セレナ、この屋敷のことは何か覚えていることはある?」

「ありません。……ごめんなさい」

「良いんだよ。リーナ、セレナを二人に会わせた後は、屋敷の中も軽くで良いから案内してやってくれ。セレナ、困ったことがあったらいつでも私のところへおいで」


 そう言ったお父様は、わたしをもう一度抱きしめてから部屋を出て行った。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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