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「そうか。……ほい、どうぞ」
「ありがとうございます」
わたしがお皿を受け取ると、それを待っていたかのようなタイミングでお父様が叔父様のことを呼んだ。
「ヴァン、悪いがちょっと来てくれ。色々話したいことがあるんだ」
「分かった。……じゃあセレナ、また後で話そう」
「はい」
このようなパーティーでは立って食べるのが基本なので、普通なら一つ一つの料理は少しずつ盛るのが正解だ。
けれど、叔父様は豪快な性格のまま盛り付けてくれたので、わたしのお皿に乗っている料理は何気に多く、このお皿を片手で持ったまま綺麗に食べれる自信はない。
強いて言うならば、持てはするけれど立ちながら食べることにわたしが慣れていない。
だからわたしは、座ってお皿を丸テーブルに置いて食べることのできるテラス席へと歩いていった。
テーブルにお皿を置き、椅子に座る。
「……いただきます」
デザートは最後に食べるつもりなので、わたしはフルーツサンドを手に取った。
……フルーツサンドも一応はデザートに分類されるのかもしれないけど、サンドイッチなんだから主食扱いで良いよね?
わたしがサンドを食べ終わり、ケーキやマカロンなどを食べていた時、隣からの視線に気づいた。
「……アウツバーグ様。いつからこちらに?」
視線の主はオーティン様で、いつのまにかわたしの隣の席に頬杖をつきながら座っていた。その前には、わたしと同じように料理が綺麗に盛られた取り皿が。
「んー、ついさっきかな。……セレナちゃんは、甘いものが好きなの?」
わたしのお皿に乗っている料理を見て、そう言ったオーティン様。
「ええ」
「そうなんだ。今さっき食べていたサンドイッチも、具材はフルーツだったもんね」
「見ていらっしゃったんですか?」
わたしが何かを食べている姿なんて、見ていて楽しいものでもないだろう。
「うん。……あ、俺のことは気にせず食べて良いからね」
気にせずと言われても、これほど見られている状態で、気にしないでいられる人がいるだろうか。
わたしが黙ったままでいると、オーティン様は自分のお皿にあった一口サイズに切られたタルトをフォークで刺して、わたしの顔の前まで近付けてきた。
「……?」
彼がしたいことが分からず首を傾げるわたし。
「はい、食べて良いよ。セレナちゃん、これは取ってもらわなかったでしょ?」
確かに、今わたしの目の前にあるケーキはわたしが叔父様に取ってもらわなかったものだ。
「クランベリーのタルトだって。俺も今さっき食べてみたけれど、美味しかったよ」
確かに美味しそうだ。良い匂いもする。
「……わたしがいただいてしまっても良いのですか?」
「うん。どうぞ」
「……じゃあ、いただきます」
わたしは恐る恐る口を開けてそのタルトを食べた。
「……!」
オーティン様の言った通り、タルトは美味しかった。ベリーの酸味がちょうど良い。
甘いものを食べたことで思わず笑顔になるわたし。
……本当に、甘いものって皆を幸せにしてくれるよね。これ、どうやって作ってるんだろう。
「玲奈」は何度かスイーツを作ったこともあったけれど、ベリーのタルトはまだ未挑戦だった。わたしも作れるようになりたい。作り方を今度ヴァイスに聞いてみようと思う。
「美味しいです。ありがとうございます、アウツバーグ様」
「……うん、どういたしまして」
……ん?今の沈黙は何だったんだろう?
「オーティン、お前は何をやっているんだ?」
「ん?普通にセレナちゃんと話していただけだよ?」
「どう考えてもそれだけではないだろう……」
アルフォンス殿下や、アルフレッド様、ルーカス様、それに兄様がそれぞれのお皿を持ってわたし達の前に立っていた。
「ねえねえセレナちゃん、僕達もここで食べて良い?」
アルフレッド様がわたしにそう聞いてきた。
「ええ、どうぞ。……アウツバーグ様、よろしいでしょうか?」
「……ああ、良いよ」
「ありがとう!」
アルフレッド様がオーティン様の隣の席に座る。それに続いて、残りの四人も着席された。
「セレナちゃん、それだけで足りるのー?しかも、スイーツばっかりだね」
わたしのお皿を見たアルフレッド様が、そう言うと、オーティン様も頷いた。
「少ないよね」
「……そうですか?むしろ、多い方だと思うのですけれど」
「……セレナちゃんは少食なんだろうね。俺達からすれば、少ないと思うよ」
その言葉に皆様のお皿を見ると、わたしよりも量は多かった。それに、肉料理やパスタなど、スタミナのあるものが多い。高位貴族なだけあって、見た目も良く盛られているけれど。
「それより、今さっきは何でオーティンからデザートをもらったの?」
「あ、美味しそうだったからです。わたしが叔父様にとっていただかなかったものでしたし……」
「セレスティーナ嬢、人からあのようにして何かをもらうのはやめた方が良いと思う。相手が異性であれば尚更」
「……?ご、ごめんなさい?」
もしかして、あーんの状態でもらったのがいけなかったのかもしれない。人として良くないのだろうか。
わたしがよく理解できずにいると、皆様が顔を見合わせた。
「……セレナちゃんの危機感をもう少し育てた方が良いかもね」
「それ、やった本人のオーティンが言っちゃ駄目でしょ」
「……アルフレッドの言葉には僕も同感です」
「確かに、このままではセレスティーナはこの貴族社会においては危険かもしれないな」
「?……?」
……皆様がわたしには理解できないことを話されている……。わたしだけ置いてかれてるよ。
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