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「本当?……ねえセレナ、困ってるの?」


 不安そうな顔をして、わたしにそう尋ねた二人。


「う、ううん。大丈夫よ!」


 二人の捨てられた子犬のような表情を見て、それ以外のことが言えるはずない。わたしは可愛いものに弱いのだ。


……そうじゃなくても、別に困ってはいないしね。


「良かった!」

「マリア、セレナ困ってないって!」



 満面の笑みでマリアの方を見るネラとミラ。

「……セレナが良いならそれでも良いけど……」


 マリアは少し眉を寄せる。彼女は黄緑色の髪と瞳を持った美少女なので、そんな困ったような顔をしていても可愛らしさは全く失われていない。


 そんなマリアに癒されていたわたしだけれど、彼等に話さなければいけないことがあったのを思い出した。


「あのね、皆。今日は、皆に話さなければいけないことがあるのよ。聞いてくれる?」

「もちろん!」

「なあに?」


 皆が頷いてくれたことを確認し、わたしはマーサの方に顔を向けた。


「……マーサ、今話しちゃっても大丈夫ですよね?」

「そうですね……。はい、大丈夫ですよ」


 マーサに許可を得たわたし。


「皆は、アンザって人を知ってる?」


 わたしがそう口にした途端、マリア達が肩をわずかに震わせた。マイペースなネラやミラも顔が強張っている。


……アンザって、この子達にも何かしてたの?名前だけでこんなに反応するって普通じゃなくない?


 もしそうだったのだとしたら、本当に許せることではない。微笑みながら、それでも心の中ではマリアやカイ達を怯えさせるアンザへの怒りを再燃させるわたし。


 けれど、もうアンザはここからいなくなった。孤児院の皆に関わってこないのであれば、わたしがこれ以上何かをする必要は無いだろう。


……その代わり、また何かしてきた時には手加減しないけどね。


 皆のことを早く安心させたいわたしは、笑みを柔らかくして口を開いた。


「この孤児院の院長はこれまでそのアンザだったけれど、今日からはわたしが孤児院長になったの。だから、皆、これからもよろしくね」


 エディが恐る恐ると言ったように顔を上げる。


「じゃ、じゃあ、もう、あの人はいないの?」

「ええ」


 わたしが頷くと、皆がほっとしたように小さく息を吐いた。その様子に、わたしは少しだけ、眉を寄せた。


「セレナ、どうしたの?」


 その言葉にはっとして隣を見ると、わたしのことをすぐ近くで見ていたミラが心配そうな表情をしていた。他の皆も同じような顔でわたしを見ている。わたしは慌てて笑みを浮かべ直す。


「ううん、何でもないわ」

「そう?なら良かった」

「セレナはいつでも可愛いけど、笑顔が一番似合うから、ずっと笑っててね!」

「ネラ、それミラが言おうと思ってたのに!」


 そんなネラとミラの言葉に、心が温かくなる。皆も同意しながら笑っていた。


「……ふふっ。ネラ、ミラ、ありがとう。そしてね、今日からは皆にはこの部屋ではなくて、ちゃんとした部屋を使ってもらうことになったわ」

「そうなのー?」

「ええ。だから、移動しましょう?……でも、その前に身体を洗った方が良いかしら……」


 地下室はお世辞にも綺麗とは言えないので、ここで過ごしていた彼等の服や身体にも、埃などが付いてしまっている。


……身体はそこまで汚くないみたいだけど……。


 今から全員が身体を洗うには、結構時間がかかる。魔法で洗うにしても、皆には秘密にしてもらわなければいけなくなる。


……いっそマーサにも皆にも打ち明けて協力してもらう?


 しばらく悩んでいたわたしは、とりあえずユリウス達と相談することにした。


「ごめんなさい、皆、ちょっとだけ待っていてもらえる?」

「うん、良いよ!」

「ありがとう。ユリウス、リーナ、ちょっと来てもらえるかしら?聞いてもらいたいことがあるの」


 地下室を出て扉を閉めると、わたしは二人に向き直った。


「お嬢様、どうかなさいましたか?」

「わたし、マーサ達にわたしの魔法について打ち明けようと思ったの。……もちろん、黙っていてもらえるようにお願いはするわよ?」

「……お嬢様が魔法を使われたくなるようなことが何かございましたか?」

「リーナはもうすでに分かっていると思うのだけれど、今さっきの寝室の掃除には、魔法を使ったの。これからこも、ここで何かをする時に、魔法を使った方が早い、ってことも出てくると思うのよ。そんな時に、いつまでもマーサ達に隠し通せる訳がないわ」


 掃除の時の件は何とか誤魔化せたと思うが、これからも怪しまれずに続けられるという保証はないのだ。それなら、今のうちに伝えておいて、子供達がうっかり誰かに言ってしまわないようにマーサにも協力してもらった方が良いと思う。


「現にカイ達の身体を洗うにも、個人個人で水を使って洗うより、魔法で地下室ごと綺麗にしてしまった方が良いと思うわ」


 わたしの言葉に、ユリウス達が納得したように頷いた。


「確かに、セレスティーナ様のおっしゃる通りですね。援助金を受け取りに行く際にしか貴族と関わることのない孤児院の者ならば恐らく大丈夫でしょう」

「ユリウスの言う通りです。ご自分で孤児院まで足を運ばれる貴族の方は滅多にいらっしゃいませんからね」

「じゃあ、マーサ達にも伝えて良いのね?」

「はい。そもそも、主人であるセレスティーナ様の行動を制限する権利など、私達にはありません。初めに我々にご相談くださり、ありがとうございます」

「私も、お嬢様がお望みになるのであれば、どんなことでも微力ながらご協力させていただきます」


 

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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