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わたし達は孤児院長室から出て、その余っていたという部屋へと移動する。
「あら……」
部屋の中は暗く、埃が積もっていた。カーテンも閉められている。
「……これはきちんと掃除しなければ使えませんね」
「そうですね。……お恥ずかしいです。どうしても使わない場所は掃除がおざなりになってしまうので……」
「まあ、それも分かります。掃除をするのは大変ですからね」
ただでさえ孤児院は子供が多く、掃除も手間がかかるだろうから、全ての場所をちゃんと綺麗にしておくのは難しいと思う。それが全く使っていない部屋なら尚更だ。
「今すぐ掃除しますので、少々お待ち下さい。子供達にお願いします」
「あ、待ってください、マーサ。部屋の掃除はわたしに任せてくれませんか?」
子供達のところへ行こうとしたマーサを呼び止める。
「え?ですが……」
「大丈夫ですから。少し部屋の外で待っていてください。すぐに終わります」
わたしは魔法を使って部屋ごと掃除するつもりなのだ。そうすれば本当に一瞬で終わる。
マーサとユリウス、リーナに部屋から出て行ってもらい、わたしは扉を閉めた。扉を閉めないと水が外に漏れ出てしまうからだ。
それに、ユリウスとリーナは良いとして、マーサが相手でもわたしが魔法を使っているところを見られるのは良くないだろうと思ったのも理由の一つだ。
部屋の方を向いて深呼吸をしたら埃を吸い込んでしまい、咳き込んだ。
「けほっ、こほっ……本当に埃が凄いのね。これは掃除しがいがありそうだわ」
……といっても、わたしがするのは魔法で水を出して部屋を綺麗にするだけだけどね。
わたしはそのまま目をつぶって洗浄魔法をかける。2秒ほど水に包まれたと思ったら、あっという間にそれらは消え失せた。目を開けると、壁は真っ白く、床はぴかぴかになっていた。薄汚れていたカーテンも、綺麗になっている。
「……凄い綺麗になったわ。やっぱり魔法は便利ね」
わたしはカーテンを開けた。明るい日差しが差し込んでくる。
「換気もしておいたほうが良いわよね。長い間空気がこもっていたはずだわ」
窓を開け、外から空気が入ってきたことを確認し、わたしは部屋の扉を開けた。
「マーサ、終わりました」
中に入ってきたマーサが、少し辺りを見回した後、目を見開く。
「綺麗になってる……こんな短時間で、どうやったのですか?」
確かに、わたしが部屋の中に入ってから一分ほどしか経っていない。
「……それは秘密です」
魔法を使っているというのは明かすつもりがないので、そう言って誤魔化した。
「それよりも、他の部屋も掃除が必要ですよね?行きましょう」
そうしてわたしは今日からカイたちが使うことになる部屋を綺麗にしていった、のだけれど。
「これ、魔法で掃除しているから、他の子達が使っている部屋よりも綺麗なんじゃないかしら……」
掃除が終わった最後の部屋を見て、わたしはそう独りごちた。
……有り得る。もういっそ全部の部屋も綺麗にしちゃう?
「マーサ、この部屋は終わったのですけれど、他の皆が使っている部屋を見せてもらっても良いですか?」
「え?ええ。それは構いませんけれど……」
わたしは普段から使われている他の部屋も見せてもらった。すると、やはり想像通り、わたしが今掃除してきた部屋の方が綺麗になっていた。
……そりゃそうか。だってピッカピカだったもん。この部屋も綺麗な方だけど……。
「普段使っている部屋も同じように掃除して良いですか?部屋の状態が違うのはあまり良くないと思うので……」
「よろしいのですか?……では、セレナ様さえよろしければ、お願いします」
「分かりました」
わたしの魔力は多分まだ結構な量が余っている。というか、いつももっと魔法を使っているのにこれくらいの掃除で魔力がなくなるはずがないのだ。同じことをあと三十回以上はできると思う。恐らくまだ綺麗にしていない部屋は十五部屋以下なので、全然余裕がある。
マーサの許可を得たわたしは、それぞれの部屋をどんどん綺麗にしていった。
「綺麗になったわね。やって良かったわ」
「セレナ様、ありがとうございます。わざわざこんなことまでしてくださって……」
「良いんですよ。皆がここにいる皆が快適に過ごせるんだったらわたしも嬉しいですし。それに、これは、わたしがやりたくてやったことですから」
そう答えながら、いつか部屋だけでなく、廊下や食堂など、他のところも綺麗にしたいと考えていたわたしだった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。