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その人は、水色の髪の毛と瞳の、整った顔立ちの女性だった。髪と瞳が涼しげな色合いであり、切れ長の目のせいか、怜悧な印象を与える。
ただ、わたしはその人のことを知らない。顔を見たのも今が初めてだ。
「……どなたですか?」
そう尋ねると、彼女は目を少し見開いた。そして、恐る恐るといった様子でわたしに問いかけてきた。
「お嬢様、もしや、覚えていらっしゃいませんか?」
「……何のことですか?」
覚えているも何も、ここに来たのはこれが初めてだ。
「あの、貴女の名前を教えていただけませんか?」
「……私はリーナです。お嬢様付きの侍女をさせていただいております」
「侍女さん、ですか……?」
「お嬢様、私は一度旦那様をお呼びして参ります。しばらくこのままお待ちくださいませ」
わたしの返事に女性改めリーナさんは一度きつく目をつぶってから、そう言って一礼すると、部屋から出て行った。
わたしはリーナさんが話したことの意味を考える。
彼女は、わたしのことを「お嬢様」と呼んでいた。でも、当然のことながらわたしはそんな呼び方をされるような人ではない。普通の一般人だ。
そして、リーナさんの髪の毛と目の色。どう考えても日本人ではない。外国にもいないだろう。この今の私の髪のような金髪の人や、水色に似た色合いの目をした人ならいるかもしれない。けれど、リーナさんの水色は、青空のような色だった。そんな人は見たことがない。
考えても良く分からないので、後で誰かに聞いてみようと思った。何を聞くのかというと、ここはどこなのか、私は誰なのか……など。
そう決めて居しばらくすると、リーナさんが戻ってきた。一人の男性を連れている。
その男性は、金髪碧眼のものすごい美人さんだった。リーナさんの先程の発言から考えると、彼が「旦那様」なのだと思う。
その人は、ベッドの近くまで来ると、座っていたわたしを突然抱きしめてきた。
「?!」
訳が分からず何も反応できないわたし。
すると、リーナさんが軽く溜め息を吐いて口を開いた。
「旦那様、先程も申し上げましたが、お嬢様は恐らく今、記憶をなくしていらっしゃいます。そんな中で急に人から抱きつかれたら困惑なさいます」
彼女の冷静な言葉に、男性はわたしから少し離れた。離れたとは言っても、両手はわたしの肩に乗せられたままなのだけれど。
その男性は、心配そうにわたしの顔を見つめていた。綺麗な青い瞳に、吸い込まれそうになる。
「セレナ、リーナが今言ったことは本当かい?何も覚えていない?私のことも?」
セレナというのが何かは分からないけれど、恐らくこの状況から考えるとわたしのことだろう。そう考えたわたしは、とりあえず彼からの質問に答えた。
「……すみません、何も覚えていません。貴方のことも……」
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。