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 怒鳴ったアンザの言葉に、わたしの後ろからもの凄い殺気を二種類感じた。リーナとユリウスが怒っているのだろう。


……あれだけ強いユリウスなら分かるけど、これだけ殺気を出せるって……。


 リーナはわたしが思っている以上に強いのかもしれない。


 アンザはわたしの後ろから漂う殺気に気づけないらしく、怯んだ様子もない。


 わたしは小さくため息をつくと、リーナとユリウスに顔を向けた。


「リーナ、ユリウス。抑えなさい」


 わたしの言葉に二人の殺気が消えた。わたしはアンザの方に向き直る。


「権限、ですか。孤児院の院長は、この領地ではウェルストン公爵家の者が決定しているということはご存知でしょう?」

「……だから何だと言うんだ⁈」

「ここまで言ってもまだお分かりになりませんか?孤児院長でいらっしゃるアンザ様ならば理解してくださると思っていたのですけれど……」


 そのアンザをたった今孤児院長でなくそうとしているのはわたしなのだから、これは単なる皮肉だ。


……まあ、その皮肉も理解してくれてないみたいだけどね。


 孤児院長を辞めろと言ったわたしが言ったこと。そして、何よりも身分が重視されているこの国で、ウェルストン公爵家の「者」と言っていること。


 わたしは今までずっと浮かべていた笑みを消してアンザの方を見た。


「わたしは、ウェルストン公爵家長女のセレスティーナ・ウェルストンです。……これで理解してくださいましたか?わたしには、この孤児院の院長を決める権利があるということが」

「な、な……」


 先程までは怒りで赤かったアンザの顔が、みるみるうちに真っ青になっていく。


「明日までにここから出て行ってください。そうでなかった場合には、職務怠慢の上に公爵家に歯向かう意思があると捉えて対処させていただくことになります」


 わたしの言葉を聞いて、アンザはがっくりとうなだれた。


******


 そして、翌日。わたしは、昨日に続いて再び孤児院を訪れていた。アンザがきちんと出て行ってくれたかを確認するためだ。そして、一応いつものようにパンも焼いてきている。


「マーサ、こんにちは。アンザはいますか?」

「セレナ様!……それが、昨夜どこかにお出かけになったらしく、まだお帰りになっていないのです。アンザ様に何か御用でしたか?」

「いいえ、大丈夫です。……どこかに出かけたというのは?」

「昨夜、大きな荷物を持って出ていかれたのです」

「そうなんですね」


 わたしが言った通りに、アンザは昨日のうちにここから去ってくれたらしい。


 昨日はウェルストン公爵家の権力を盾にして脅すようなことを言ったけれど、あまり大事にはしたくなかったので、素直に出て行ってくれて助かった。


 結構きついことを言ったという自覚はある。でも、今回は確実にアンザの自業自得だ。ここで暮らしている皆の環境を改善することが最優先だったので、これで良かったと思っている。


 わたしは万能な訳でも、ましてや聖人君子な訳でもないので、誰でも助けることはしないし、できないことをするつもりはない。


「アンザには、この孤児院から出て行ってもらったのです。今日ここに来たのは、その件でマーサとお話ししたいことがあったからなのですけれど、場所を移させてもらっても良いですか?」

「え、ええ。先日使った応接室へ行きましょう」


 混乱しているらしいマーサについて部屋を移動し、ソファに座ると、マーサがすぐに口を開いた。


「そ、それで、セレナ様。アンザ様にここから出て行ってもらった、というのは……?」


 わたしは、昨日あったことを洗いざらい話すことにした。


 援助金をもらってここに帰ってきた後、出かけていったアンザの跡をつけたこと。ある商会で高いワインを二本買っていたこと。孤児院に戻ってきた時点で彼に声をかけ、話をしたこと。アンザが口が滑らせて自分が横領していたことを自白してしまったこと。そして、わたしがその自白と子供達の環境を元にここから一日で出ていくように言ったこと。


 魔法でヴァンスター商会の個室の中を覗いていたとか、そういう言う必要のないことは言わない。


「……そういう訳なんです。勝手なことをしてしまい、ごめんなさい。けれど、ここにいる皆のことを考えると、こうするのが一番だと思ったのです」


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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