33
「あ、誰かが出てきたわ。あれがアンザね。マーサに教えてもらった特徴と一致しているから間違いないわ」
わたし達は、今孤児院のすぐそばで話している振りをしながらアンザが出てくるのを待っていた。屋敷を出発し、到着してから待つこと十数分。一人の背の低い男性が出てきた。アンザだろう。
わたし達は視線を孤児院の方に向けてアンザの様子を観察する。
アンザは茶色の髪をしていて、見た目は四十歳くらいだ。糸のように目が細くて、瞳の色は分からない。
「……なんか……小物感が漂ってますね……」
リーナの呟きにわたしとユリウスは苦笑する。
「わたしもアンザのことは初めて見たけれど……まあ、確かにそんな気はするわね……」
わたしとリーナが話していると、アンザは止まった馬車に乗り込んだ。
「セレスティーナ様、アンザがどこかに行こうとしています。このまま追いますか?」
「あ……そうね。どこに行くのか調べたいわ」
「そうですか。では、このまま続けましょう」
幸い、馬車の速度はあまり早くなく、見逃すことなくついていくことができた。
「……ここ、は?ユリウス、リーナ、知っている?」
アンザが入っていったのは、一つの大きな建物だった。
「ここは……ヴァンスター商会です。大規模な商会で、この領地だけでなく、この国の中でも大きな力を誇っています」
「わたし達が入っていくのは無理かしら?恐らく、アンザが使っているのは個室よね?」
「……そうでしょうね」
「個室に赤の他人であるわたしが入り込んでいくのはどう考えても無理ね。じゃあどうしたら……」
……扉の外で何を話しているのか聞いてみる?……いや駄目だ、怪しすぎる。でも、魔法で見れる訳でもないし、どうしよう……。
「……魔法?」
あることを思いついたわたしは、早速実行してみることにした。
……えーと、こうして……。
「お嬢様?」
「……何をなさっているのですか?」
「ふふっ、ちょっと見ていて。……わたしも初めて試すから、成功するかは分からないのだけれど」
わたしがしようとしているのは、空間魔法を使った部屋の監視。アンザと、そしてヴァンスター商会の人達が何をしているのか、何を話しているのか調べるのだ。
まず、空間魔法でわたし達の目の前の空間とヴァンスター商会の建物の中の空間をつなぐ。アンザのいる部屋を見つけ出すために、更にそこから空間の継ぎ目を移動させていく。この場合、継ぎ目というのはもちろん建物の中に開いている方だ。
誰かに見つからないように、天井に近いところで広げている。そして更に、水魔法を使って継ぎ目の近くに水を張っている。
こちらからは簡単に様子が見えるけれど、もし気づいた人がいたとしても向こうからはわたし達の様子は見えない。注意深く見たとしても、水だから最悪揺れているように見えるだけだ。
「あ、いたわ。この部屋ね」
アンザが一つの部屋に入っていくところを見つけたので、わたしもその部屋の中の中に移動する。そして、こちら側に開いている継ぎ目の大きさを広げた。
今まではわたしが見やすいように、わたしの顔の近くで開いていたのだ。五歳にもなっていないわたしの顔はそこまで大きくないので、三人で見るためには小さいのだ。
「二人共、見て。この部屋に、アンザがいるみたいよ」
「……?!」
「セレスティーナ様、これは……?」
二人はとても混乱している様子だ。
「えーと、空間魔法で二つの空間を繋げたのよ。そして、アンザのことを追ったの」
「はい?」
わたしが何をしたのかを説明しても、目を見開いている。むしろ、更に驚いた様子だ。
……どうしよう?これ以上わたしに説明できることなんてないんだけど……
わたしがどうすれば良いか悩んでいる間に、ユリウスとリーナは驚きから立ち直ったらしい。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。