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ユリウスとの剣術の稽古を始めてから二週間が経った。
稽古を初めてしばらくは、素振りを中心としていた。けれど、やはり剣は重く、それだけで結構な体力が奪われてしまった。
それが少し悔しくなり、朝と夜にランニングと筋トレだけでなく、素振りのメニューを追加した。自主練を始めて3日目くらいには、剣の重さに慣れることができたようで、長時間でも持ち続けることができるようになった。もちろん、普通に振り回すこともできる。
……っていうか、それさえできなかったら剣術を習うなんて絶対にできないよね。
それからは、ユリウスを相手とした対戦方式の練習が始まった。
ユリウスは知的な見た目からは想像できないほど強く、対戦し始めた時にはもはや一瞬と言っても過言ではないくらいのスピードで降参させられていた。
けれど、何回か剣を交えるうちにコツのようなものを掴んだのか、迫ってくるユリウスの剣をわたしが剣で弾けるようになった。
これにはユリウスも驚いていた。やった本人であるわたしも驚いた。いくらユリウスが細身だとはいえ、成人男性である彼とわたしの間には歴然とした体格差があるからだ。
とはいえ、まだユリウスに勝てる回数は多くないので、これからどんどん稽古をして強くなっていきたいと思っている。
そのために、朝と夜の体力づくりと筋トレ、素振りはこれからも欠かさずにやっていこうと思っている。
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今週は、新しい月になってから最初の週だ。つまり、孤児院に援助がされる週。
この二週間の間、わたしが孤児院について何もしていなかった訳ではなく、二日に一回ほど自分で焼いたパンやケーキを持って孤児院を訪れていた。
その結果、地下室にいたネラやミラ、カイ達とは、結構仲良くなれたのではないかと思う。それだけではなく、マーサが五歳以上の子供達にわたしを紹介してくれたおかげか、彼等もわたしに打ち解けてくれた。わたしが孤児院に行った際、挨拶をしてくれるのである。
肝心のアンザをどうにかする件だが、後をつけてみることは決まっている。そのことについて、ユリウスに協力してくれないかと頼むと、快く引き受けてくれた。ユリウスに頼んでいるところを見たリーナも同行したい、と言ってくれたため、一緒に来てもらうことにした。
色々と調べてみた結果、孤児院長はその領地で最も身分が高い家の人が決めているらしい。つまり、この領地で一番身分が上の家はウェルストン公爵家なので、一応わたしでも孤児院長を決めることはできる。
ということは、今すぐマーサを孤児院長になってもらうというのが最も簡単で、そのうえ早く済んで、皆の生活環境も良くすることができるだろう。
けれど、確実にアンザは納得してくれないと思う。わたしが五歳にもなっていない子供だからという理由で舐められるかもしれないし、下手すると孤児院の皆をもっとひどい目に遭わせるかもしれない。
そんなことをさせる訳にはいかないので、彼にはきちんと自分の職務怠慢を突きつけたいと思う。
そのためにアンザをつけてみる日は二日後。マーサに教えてもらったアンザが孤児院を出ていく、という十二時頃に孤児院へ行くことになっている。
十二時よりも前に屋敷を出なければいけないので、初めて外出した日と同じように昼食は少し早めにしてもらうよう、ヴァイスにお願いしている。
「ユリウス、リーナ、明日はよろしくね」
「はい、お嬢様」
「こちらこそ、よろしくお願いします。……セレスティーナ様、くれぐれも無理はなさらないようお願いしますね」
ユリウスの心配そうな声に、わたしは苦笑して、頷いた。
「ええ、分かっているわ」
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。