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「多分、わたしの家にあった本に書かれていることは正しいと思います。つまり、帳簿の額が間違っているんですね。それを書いているのが孤児院長ならば、怪しいのはアンザだと思うの、マーサはどう思いますか?」

「そ、れは……」

「マーサ、毎月始めの週にアンザが何をしているか教えてくれませんか?その日でなくても、何かアンザに不審な点があれば是非教えてください」


 孤児院に援助がされるのは、毎月最初の週なので、アンザが何かをするとしたらきっとその時だ。そう考えてのわたしの発言だったのだけれど、マーサには心当たりがあるようだった。


「貴族の方からの援助を受け取りに行かれるのはアンザ様なのですけれど、その日は毎回お帰りになった時から機嫌が良いです。そして、一度お帰りになってから、馬車を使ってまたどこかにお出かけになります。こちらに戻られるのは日が沈んでからになります。……これくらいしか分からず、申し訳ございません」

「いいえ、大丈夫ですよ。それで充分です。ありがとうございます」


 怪しいのは、一度帰ってきてからまた出かける、ということだ。その間に何かをしているの可能性が高い。


……一回アンザの跡をつけてみる、とか?ユリウスに頼めば一緒にやってくれるかな?


 次の援助がされるのは、二週間後。アンザの様子を調べる機会は、その時しかないだろう。


 アンザが援助金の詐称をしている証拠を掴み、彼を孤児院から追い出す。そして、きちんと子供達のことを第一に考えて行動してくれる人に孤児院長になってもらうこと。


 そうすれば、カイやミラ達をきちんとした環境で育てる事ができるはずだ。それに、「仕事」を無くさせることも。


 自分が結構悪いことをしていることは分かっているけれど、やめる気はない。アンザが悪いことをしているのならば彼の自業自得だし、カイやミラ達の方が大事だからだ。


「マーサ、教えてくれてありがとうございます。わたしはそろそろ家に帰りますけれど、アンザのことはどうにかするので、少し待っていてください」

「はい。……セレナ様、ありがとうございます」

「まだお礼を言われるようなことはしていませんよ。状況は何も良くなっていないのですから」


 まだアンザのことをどうにかできたわけでもないのに、お礼を言われると、どうすれば良いのか分からなくなる。


 そう思ってのわたしの言葉だったのだけれど、マーサは微笑みながら少し首を横に振った。


「いいえ。……これまで何人もの方がこの孤児院にいらしてくださいました。けれど、子供達の生活環境が整っていないことを知っても、何かをしてくださる方はいらっしゃらなかったのです。あの地下室にいる幼い子供達のことを気にする方もいらっしゃらなかったのです」


 わたしはその言葉に目を僅かに見開く。あの状態の子供達を知っていて放置している人がいるとは思わなかったのだ。アンザは放置しているけれど、あの環境を作り出した張本人なので無視する。


「でも、セレナ様は改善しようと気を配ってくださっています。クッキーやケーキまで恵んでくださって……それだけでも、あの子達にとっては嬉しいことだったのでしょう。その証拠に、滅多に人に懐かないネラやミラもセレナ様のことは好いているようでしたし……それだけでなく、あそこにいる子供達は基本的に警戒心が強いのです。失礼ながら皆がセレナ様と話している様子を見てとても驚きました」


******


「マーサ、それではまた今度来ますね。今日はありがとうございました。さようなら」

「こちらこそ、わざわざお越しくださり、ありがとうございました」


 その後、わたしはマーサと少しだけ話し、帰ることにした。今の時間は三時半。そろそろ帰らないといけないのである。


……まあ、帰りも走るから、そこまで時間はかからないと思うけどね。


 孤児院を出て、走り出す。行きと同じ道を通って、屋敷へと戻った。


 屋敷に帰ると、ユリウスとの稽古のために着替えて用意をする。用意を終わらせると、すぐに訓練場へと向かった。ユリウスはまだ来ていなかったので、時間になるまでランニングをしていることにした。


「セレナ様、お待たせしました」


 しばらくするとユリウスが来たのでわたしは走るのを止め、稽古を始めた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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