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そして、翌日。
わたしは料理場に行ってココアのシフォンケーキを作ると、部屋に戻った。昼食が終わり次第すぐに屋敷を出れるよう、用意をしておくためだ。
シフォンケーキは結構な量になった。なにしろ十人の子供達に渡すために、余裕を持って十五人分のケーキを作ったのである。当然といえば当然だ。
わたしは服の用意を終わらせると、一つのことに気づいた。それは、このシフォンケーキをどのようにして持っていくかということだ。
渡す時になって魔法でぱっと出す訳にはいかない。リーナとユリウス以外の人の前では魔法は見せないと約束したからだ。
……でも、孤児院までは走っていくんだから、袋に入れて手に持っていくっていうのも無理そうな気がする。
今日はもちろん馬車を用意してもらっていないので、時間短縮のためにも走って行くつもりなのだ。そうなると、何かに入れていくだけだと走っている間に形が崩れてしまうだろう。
「あら?『袋』?」
袋という言葉で、わたしは一つ妙案を思いついた。
「昨日買ったバッグは……あったわ」
『昨日買ったバッグ』とは、もちろんあのウォレットショルダーのことである。
わたしはバッグを開いて中を見る。
……うん、これなら大丈夫そう。
わたしは、バッグの底に収納魔法の亜空間の入り口を取り付けた。もちろんこの亜空間は、いつもわたしが使っている空間とは別のものだ。
つまり、二つ目。二つの亜空間を同時に使っている形になるので、魔力消費量はもちろん増えるけれど、あまり問題はなさそうだ。
わたしは先程しまったシフォンケーキと、昨夜まとめた紙を取り出してバッグの中にしまった。
これなら、中を覗かない限りただのバッグにしか見えないだろう。
……これで魔力とか諸々が大丈夫そうだったら、お財布も同じようにしようかな?
とりあえず、これで問題は解決した。後は昼食を食べて行くだけだ。
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リーナが昼食の片付けをするために部屋から出ていくと、わたしは服を着替え、バッグを肩にかけて部屋を出た。そして玄関まで早足で移動する。
幸い、途中で誰かと会うことはなく、すぐに屋敷から出ることができたため、敷地から出ると孤児院に向かって走り出した。
昨日初めて行ったばかりだけれど、ホークス商会に行くまで馬車から外の様子を眺めていたお陰で、道は分かる。そして、ホークス商会まで行けば孤児院はすぐ近くだ。
今日は髪を結んでもらう時、背中までの長い髪が邪魔にならないようにリーナにお願いしたので、走る時に顔にかかることもない。そして、昨日と同じように日焼け対策はしっかりとしているので、心配事はない。
わたしはそのままスピードを緩めることなく孤児院まで走り続けたのだった。
「……は、はあ、はあ。さ、流石に少し疲れたわ」
大体五キロくらいの距離をずっと走り続けていたので、流石に息が苦しい。けれど、そのおかげで屋敷を出発してから二十分もせずに孤児院に到着できた。
水を飲み、息を整えると、わたしは孤児院の入り口の扉を開けた。
「こんにちは」
しばらくすると、昨日と同じようにマーサが出てきてくれた。
「まあ、セレナ様!今日もいらしてくださったのですか?!」
「はい。今日はお願いしたいことが色々とあるのですが、まず、地下室に行かせてもらえませんか?」
「もちろんです。こちらへどうぞ」
昨日一度行ったからか、今日は渋ることなく案内してくれた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。