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「……マーサ、この人だあれ?」


 マーサの近くにいた一人の子が、不安そうな声でマーサにそう尋ねる。


「この方は、セレナ様よ。今日、たまたまこの孤児院に来てくださったのですって」


 マーサがそう言ってわたしのことを紹介してくれた。


 わたしは、皆の緊張や警戒心がほぐれるように、彼等に笑顔を向ける。そして、自己紹介をするために口を開いた。


「皆さん、こんにちは、わたしはセレナよ。よろしくね。皆、何かわたしに伝えたいことはある?何でも良いわよ」


 一応、何か言いたいことがあるかもと思い、そう聞いてみた。


「お、お腹……すいた」


 その声に、わたしは目を見張る。第一声がその言葉だとは思わなかったのだ。


「マーサ、ちょっと待っていてくれますか?」

「え?は、はい」


 マーサの許可を取ると、わたしは地下室から出た。お菓子を収納しているはずなので、それを取り出して彼等に渡そうと思ったのだ。


 わたしはクッキーを取り出すと、また部屋に戻った。先程地下室にいた十人が何枚かずつ食べられるような量はある。


「戻りました。……皆、これをどうぞ。あまりお腹は膨れないかもしれないけれど、多少はマシになるはずよ」

「セレナ様……それはどこから……」


 驚いているマーサだけれど、それを説明している暇はない。わたしは子供達に取り出したクッキーを配り始めたのだった。


 しばらくしてクッキーを食べ終えると、子供達はわたしに笑顔を向けた。


「セレナ、クッキーくれてありがとう!」

「み、皆、様付けもなしで呼んでは駄目よ」


 マーサがそう言って焦っているが、わたしは別に呼び方なんて気にしていないし、どう呼ばれようと構わない。


「どういたしまして。皆の名前を教えてもらっても良い?」


 彼等の名前を知らないことに気づき、名前を聞くことにした。


「僕はカイ!」


 カイに続いて自己紹介してくれた彼等の名前はというと。


 男の子は、カイ、ジョン、アラン、ジェイク、エディー、ハリー。


 女の子は、マリア、ネラ、ミラ、アリス。ちなみに、ネラとミラは双子なのだそうだ。


「カイ、ジョン、アラン、ジェイク、エディー、ハリー、マリア、ネラ、ミラ、そしてアリス。わたし、これから何回かこの孤児院に来ると思うから、よろしくね」


 これからもここに来るというのは、今決めた。こんな風にお腹をすかせた子がたくさんいて、成長するために必要な環境すら整っていないところでこの子達を放置する訳にはいかない。絶対に駄目だ。


……せめてこの環境を作った原因の人をどうにかしないと。


「じゃあ、わたしはこれで一旦戻るわね。皆、また今度。さようなら」


 わたしが扉を開いて外へ出ると、リーナとユリウスも部屋から出てきた。


 その後少ししてからわたしのところに来たわたしは、彼女の方に向き直る。マーサには尋ねたいことがたくさんあるのだ。


「……マーサ、貴女は五歳にもなっていない子供達をあのような地下室で生活させることについて、どう思っているんですか?」


 わたしのその質問に、マーサは逡巡したような様子を見せたけれどやがて顔を上げてわたしを見た。


「私は、年齢に関わらず子供達には太陽の光が当たるところで成長していってほしいと思っています。できることならば、仕事もさせたくはありません。……生活する上での最低限の技術は身につけるべきだとは思いますが……」


 しっかりとわたしの目を見て話すマーサの言葉には嘘は感じられない。マーサが心から、思っていることを言っているのだと分かった。


「ここで過ごす皆さんのことを考えてくれる人がいると知れて良かったです。……けれど、マーサ。そう思っているのならどうして今の状況を変えようとしていないのですか?それよりも、何故こんな状況で幼い子供達が育てられているのですか?」


 わたしも幼い子供であるということはこの際置いておく。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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