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「……こんにちは!」
扉を開けてそう挨拶すると、奥の扉から一人の優しそうな若い女性が出てきた。栗色の髪に、金色の瞳。
扉の奥からは、幼い子供の明るい声が聞こえる。
「こんにちは。この孤児院になにか御用ですか?」
「たまたまここを通ったので、孤児院の様子を見学させていただきたいなと思ったんです。よろしいでしょうか?皆さんと遊びたいなとも思って……」
わたしがそう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。
「もちろんです。貴女のお名前を教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「……わたしは、セレナです」
「セレナ様ですね。私はマーサと言います。……ではセレナ様、こちらへどうぞ」
そう言ってマーサは扉を開けた。
中は大広間のようになっていて、幼稚園に通うくらいの小さな子から、中学生くらいの子までがいた。皆が入ってきたわたし達の方を見ていた。
「……マーサさん、今は皆さん何をしているんですか?」
「セレナ様、私のことはマーサとお呼びください。そして、今は自由時間です。五歳から十三歳までの子供達が遊ぶ時間になっています」
遊んでいる皆は楽しそうだけれど、痩せている子が多い気がした。多いというより、今わたし達の目の前にいるほとんどが痩せている。
……しかも、服もあんまり綺麗じゃないし……。
「……マーサ、ここでは、どんな風に一日を過ごしているんですか?」
わたしがそう尋ねると、マーサは暗い顔になった。
「……朝六時に起床し、それぞれに振り分けられた仕事をしてから朝食、そしてまた仕事をして自由時間を過ごした後、夕食をとって就寝です」
マーサが言った一日の過ごし方の中には、お風呂が含まれていなかった。けれど、今はそれよりも気になることがある。
「仕事というのは……?」
「庭にある畑の世話をしたり、孤児院長のお手伝いをしたり……です。この孤児院では、五歳以上の子供達にそれぞれ仕事が与えられているのです」
……五歳児が仕事をするのか……。それに、ご飯も一日に二食だけか。仕事をして疲れていると思うのに……。
そんなことを思ったわたしだったが、ある一つのことに気づいた。
「では、五歳になっていない子達はどうしているんですか?いない、という訳ではないでしょう?」
「……地下室で過ごします。五歳になるまではそこから出ることはできません」
……地下室?何か、聞いただけでもあまり良い環境ではなさそうなんだけど。
「その地下室を、わたしに見せていただけませんか?」
「そ、れは……」
そう言って、躊躇う様子を見せるマーサ。
そんな彼女の様子を見て、わたしはあくまで小さい子供の好奇心から出た言葉のように、明るい声を出す。このまま案内をしてくれるまでは押し通すつもりだ。
「わたし、ここで暮らしている他の皆さん……今この場にいない人達も見てみたいんです」
わたしがそう言うと、マーサは困ったような顔をしてから歩き出した。
「……セレナ様、こちらへどうぞ。ご案内します」
「……ありがとうございます!」
階段を降りていくと、地下室があった。
マーサが扉を開けると、蒸し暑い空気が漏れてくる。その空気に混じって、少し汚臭がした。地下室には窓がなく、換気が全くできていないのだ。
……こんなところで小さい子達が暮らしているなんて……。環境が悪すぎる。
マーサが部屋の中に入っていくと、隅の方に固まっていた十人くらいの子供達が、「マーサ!」といって立ち上がった。その声に恐れなどは見られない。マーサが子供達から慕われているのが分かった。
けれど、続いて入ってきたわたし達を見ると、顔を強張らせてしまった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。