16
「……アルフレッド・オスカー様、オーティン・アウツバーグ様、ルーカス・ケルライン様、そしてアルフォンス殿下。ウェルストン公爵家長女、セレスティーナ・ウェルストンでございます。以後、お見知りおきを」
わたしは彼等に向かって貴族子女としての礼であるカーテシーをした。これも本を読んで身につけたものだけれど、やり方は多分間違っていないはず。これまでは相手がいなかったので、誰かに向けて実践するのはもちろん今日が初めてだ。
視線を感じ、恐る恐る体勢をもとに戻す。すると、彼等はわたしのことをじっと見ていた。微笑みを浮かべてはいるけれど、何かに驚いているような気配がした。一番分かりにくいのは、アルフォンス殿下だ。表情が読めない。
「……あの、兄様。わたし、何か間違えましたか?」
沈黙に不安を感じて兄様に質問した。
「……いや、セレスティーナは何も間違えていないよ」
声に戸惑いを滲ませて返事をしてくれたウィリアム兄様。
……じゃあ、皆様は、何に驚いているの?
「セレスティーナ、どこでカーテシーを覚えたの?」
「え?えーと……」
……どうしよう。本で読んだって答えて良いのかな?今まで誰にも言ってないんだけど……。
どう答えるのか悩んでいたわたしを見て、アウツバーグ様が話題を変えてくれた。
「それより、セレナちゃんはどうして庭に来たの?」
初対面の人を愛称で呼べるアウツバーグ様に少し関心しながら、わたしはリーナを探して庭まで来たことを伝えた。
「わたしの侍女のリーナに伝えたいことがあって探していたんです。庭に出ていったということを教えてもらったので……。兄様、リーナを見かけませんでしたか?」
「いや、見てないな。俺たちがここに来たのは15分くらい前だからな」
アルバート兄様の言葉に、わたしは手を頬に当てて少し考える。
「そうですか……。ありがとうございます。では、わたしは戻りますね」
リーナを探していたので、ここにいないのであれば長居する必要はない。
……兄様達のお話も邪魔しちゃってるしね。
「皆様、どうぞごゆっくりお過ごしください」
お客様への礼儀として、そう言ったわたしは玄関の方へと戻った。
リーナは見つけられなかったので、先程決めていた通り、後で伝えることにして、わたしは料理場へと向かった。
最近、わたしは料理にはまっているのだ。一週間に一回くらいのペースで料理場を使わせてもらっている。料理と言っても、お菓子を作るのがメインなのだけれど。今までに作ったのは、プリンやクッキー、スポンジケーキなどだ。
前世では仕事で忙しい父の代わりに料理をしていたので普通の料理も作れるのだが、朝昼夜に料理人さんが作ってくれた料理がでるため、その食事だけで満腹になるわたしには料理を作って食べるほどのお腹の余裕はないのである。
だから、どうしても作るのはお菓子になってしまう。作ったものは、基本的には自分で食べている。けれどそれだけでは余ってしまうので、リーナや場所を貸してくれた料理長を含む料理人さん、使用人の皆さんにおすそわけしたり、家族の食事のデザートとして出してもらったりしている。わたしがお菓子作りをしていることは家族には伝えていないので、もしかすると気づいていないかもしれない。
ちなみに、料理長のヴァイスとわたしは仲が良い。ヴァイスは背が高くて見た目は少し怖いけれど、可愛いものが好きで優しい男性だ。そして料理に対する愛が大きい。わたしが初めて料理場に行った時、「いつも美味しいお食事をありがとうございます」と言ったら、とても喜んでいた。そして、お菓子をするときにいつも手伝ってくれる。ヴァイスは、わたしからすると親戚の叔父さんのような存在なのである。
……見た目は強そうなのに、あんなに美味しいご飯が作れるって凄いよね。
わたしは収納魔法でしまっていたエプロンを取り出し、ドレスの上から着用して料理場に入った。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。