113
わたしが日課である朝の運動を終えて部屋に戻ると、もうセドリックは起きていて、まさかのソファに座ってじっとしていた。
「……待たせちゃった?」
起きてたなら部屋に戻ってもらって大丈夫だったのにと思いながら慌ててそう聞くと、セドリックは首を横に振った。金色の髪がサラリと揺れる。
「……いえ、全然待ってないです。それに、僕が姉様と話したかっただけなので」
「……ぅ、」
可愛い。優しい。何この子。
生まれて初めて(前世も含めて)胸がときめいた。これは別に恋愛とかいう意味ではなくて、ただ単純にセドリックが可愛すぎて、だ。
前世で仲の良かった友人が推し活というものをしていて、推しに対する愛をよく語られていたのだけれど、その気持ちを少し理解した気がする。
……多分、尊いっていうのはこういうことだよね。
多分わたしは、セドリックをものすごく可愛がると思う。思うというより断言する。これは確信を持って言える。
ただでさえわたしは、小さい可愛い子を見ると可愛がりたくてしょうがなくなるのだ。赤ちゃんなどを見た暁には普段はあまり動かない表情筋が緩む。友人にも、「めっちゃ良い顔するじゃん……」と驚かれたぐらいだ。
しかもセドリックは弟。どれだけ甘やかそうが可愛がろうが何も文句は言われない。仲良くして欲しいとお父様にも言われたぐらいだし、逆に喜んでもらえるのではないか。
……まぁ流石に限度は弁えるけどね?嫌がられたら本当に元も子もないから。
精神年齢だけで言えば十代も後半なわたしだけれど、弟を可愛がるぐらいなら良いだろう。しかも最近はなんだか体の年齢、つまり”セレスティーナ・ウェルストン“の実年齢にところどころ押され気味なので問題ない。
(だって感情とか口調は完全にセレスティーナに引き摺られてるもの)
もしかしたら、わたしが前世の記憶を取り戻してから時間が経ったからかもしれない。セレスティーナが前世を思い出して“わたし”になったのか、わたしがセレスティーナの“中”に入り込んだのかは正確には分からないけれど。
もし前者だったのであれば、日本人として生きた異質な記憶に適応というかそれを受け入れ終わったということだろうし、後者の方であれば二つの人格(魂?)が同化したんだと思う。まあ難しいことまでは分からない。
「姉様?」
色々と考えていたら、セドリックが不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「……あ、なんでもないわ。待っていてくれてありがとう」
「いえ」
「話すと言ってももうそろそろ準備の時間なんだけれどね。もう少し早く戻ってきた方が良かったかもしれないわ」
待たせた挙げ句に大して話もできないというのは申し訳ない。
「いえ、僕が勝手に待たせてもらっていただけなので全然大丈夫です。でもあの、……もし良かったら、またお邪魔させてもらっても良いですか?」
「……!」
少し不安げなセドリック。
……良い子すぎる。年齢の割に成熟しすぎじゃない?
昨日の夜に聞いた話からすれば、そうならざるを得なかったのかもしれないけれど。本当に、どうしてこんな幼くて可愛い子に酷いことができるのかが全く理解できない。神経を疑う。
「全然構わないわ。いつでも来てちょうだい、むしろその方が嬉しいわ」
「ありがとうございます」
「あぁ、そうだ。ねぇセドリック、その敬語、外してもらえるかしら?」
「敬語、ですか?」
「そう」
年齢差なんてほとんどないし、もう少し気を許してもらえたら良いなというのが本音だ。
「わたしとしては、気軽に話してくれたほうが嬉しいから。……無理、かしら?」
もしかしたら、そんなに簡単に距離は詰められないのかもしれない。人を信用するのは大変なことでもあるから。それがセドリックのような小さい子で、更に人から冷遇されていた経験があるのであれば尚更だ。
無理をさせたい訳ではないので今すぐじゃなくても良いわ、と告げようとしたわたしだったけれど、セドリックはしばらくして頷いてくれた。
「こっちの方が慣れてたので……。姉様がその方が良いなら、頑張ります。……あ、いえ、頑張る」
「……ありがとう」
それから少しだけ話して、朝の準備のためにセドリックは自分の部屋へと戻っていった。
今日は連続更新できました。明日は分かりません、すみません……。




