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112 セドリックside.



 ウィリアム様とアルバート様に挨拶をした後。僕は父上から諸々の説明を受けて部屋へと戻った。入浴は夕食の前に済ませたので、あとは寝るだけだったのだが……。


「……寝れない」


 ベッドに寝そべったが良いけれど、まったく眠りが訪れる気配がない。


 いつもよりも数倍ほど広い部屋。ふかふかなベッド。そして今日は、叔母達に何かされることもなかった。そんないつもとの違いが僕の睡眠を妨げる。いつもであれば限界まで働いた後にベッドに倒れ込むようにして眠っていたから、それに慣れてしまったのだろう。


 本当にこれからは働かなくていいのか。叔父達のところに戻されたりしないか。というか本当は、両親の友人だった公爵なんて存在しなくて、僕は長い夢を見ているのではないか。そんな不安が湧き出てくる。


 そのままどれほどの時間が経っただろうか。眠れずにいた僕は、ノックの音の気がついた。コンコンという遠慮がちなそれに、僕は立ち上がってドアへと近づいていく。


 扉を叩いていたのは姉様だった。


 僕が眠れていないことをすぐに看破した姉様は、「わたしの部屋に来る?」と聞いてきた。どうやら僕は部屋にお招きを受けているらしい。


 良いのだろうか。そんな考えも浮かんだが、結局はお邪魔させてもらうことにした。




 僕を部屋に招き入れてソファに座らせると、姉様は隣の部屋へと入っていった。


 何もすることはないものの、勝手に部屋を物色する訳にもいかない。じっと座って待っていると、姉様がいるはずの隣の部屋から“あるもの”の気配を感じて顔をそちらに向ける。


 “あるもの”とは、魔力。


 本来であれば、血が繋がっている訳でもない、赤の他人の魔力を感じることができるというのはありえないことだ。


 幼少期から魔法を使うことができ、そして他人の魔力を観測できる。その二つが、僕に天が与えた力だった。


 天から与えられたなどと言ったけれど、僕にとってこの二つ、特に後者はいらないものだった。両親が驚きつつも褒めてくれた頃は誇りに思っていたけれど、二人が死んでしまってから、その思いは覆された。


 理解できないことを、人は何よりも恐れ、忌避する。幼かった僕は、そのことを理解していなかったのだ。


 化物という恐れが籠もった呼び名、蔑みの視線、そして逃れることのできない嫌がらせ。


 こんな目に遭うなら、こんな力いらないと。あの時力を見せなければ良かったと。何度も何度も後悔して、自分の境遇を恨んだ。


 僕がここ(公爵家)に迎え入れられる前のことを思い出していると、姉様が部屋から出てきて、僕と向き合うようにして座った。


 気を取り直しした僕は姉様に魔法に関して質問をする。やはり魔法が使えるようだ。僕の言葉に頷いた姉様を見て、もしかしたら、この人ならば理解してくれるのではないかと期待を抱く。


 そして僕は、自分の持つ力、そしてそれらのせいで変わってしまった叔父達との生活について打ち明けてしまった。話した後になって、また恐れられて、怖がられたらどうしようと不安を抱く。


 けれど姉様の反応は、僕が予想していたものとは真逆だった。


 憐れみでも同情でもなく。まるで彼女までもが僕の“あそこ”での生活を追体験したかのように思えるほど、心から僕を心配して、自分のことのように悲しんでくれた。


 それが上辺だけのものでないのは、姉様の目を見れば分かる。宝石のような瞳の奥に、心配と悲しみ、そして叔父達への怒り以外の感情は見えなかった。僕が恐れていた、恐怖、そして畏怖もしていないようだった。更には僕の力のことを羨ましがった。


 これが何も知らない他人であれば、僕の心にここまで響くことはなかっただろう。むしろ怒りを感じたかもしれない。でも僕と同じように、魔法が使える姉様だから。今日初めて会った僕のために泣くことができるような姉様だからこそ、僕は彼女からの言葉を素直に受け止めることができたのだと思う。


 僕は両親が死んでしまってから、初めて泣いた。叔父達と暮らしていた時は、そんな時間も体力も心の余裕もなかった。


 姉様に抱き締められて、自分が辛いと思っていたこと、そして、忙しすぎて忘れていた両親に対する未練を思い出したせいで心を縛っていた枷のようなものが外れたのだと思う。


 姉様の方に顔を乗せて泣く僕のことを、姉様は迷惑ない様子など微塵も見せずにずっと抱き締めていてくれた。


「多分、服を濡らしちゃった気がする……」


 貴族令嬢であれば、自分の服を汚されれば怒ると思う。少なくとも、僕が知っている令嬢、つまり従妹だったら確実に怒る。


 けれど姉様はそんなことを気にしている様子もなかった。そして恐らく、そのまま寝てしまった僕をベッドまで運んでくれた。華奢な姉様が僕のことを持ち上げられるとは思えないので、魔法を使ってだと思う。


 寝ている途中で二回、温かい、ふわふわとした魔力を感じた。寝ていたから分からなかったけれど、今考えればあれは姉様の魔力だと気付く。一回目は僕をベッドに運ぶため、そして二回目は……。僕が最悪な夢を見ている時だった。


(……もしかして、だから?)


 もしかしたら、慰めようとしてくれたのかもしれない。出会ったばかりの姉様がそこまでしてくれるかは分からないけれど、僕が昨日接したセレスティーナ・ウェルストンという令嬢からは、それをしそうなほどの優しさを感じた。


(タオルも多分、姉様が用意してくれた物だし……)


 そう気付けば、じわじわと胸が温かくなっていった。両親が死んでからは久しく感じていなかった、心の安らぎ。人の温もりが、こんなに心地よいものだということを思い出して、僕はまた泣きそうになってしまった。





本当にお久しぶりです、お待たせしました……!

約二ヶ月ぶりの投稿です(色々やることが多すぎて……)


ずっと書いてなかったので腕が更に下がっている可能性ありですが暖かい目で見てもらえれば嬉しいです……

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