110 セドリックside.
その日もこき使われ、ボロボロにされてベッドに寝転がった。何も考えなくてもすぐに眠りは訪れる。
僕は何か悪夢を見ていたらしい。どんな内容だったかは分からないけれど、とても嫌なことだったのは覚えている。それなのに寝覚めがさほど悪くないのは、その夢の中で最後に感じた暖かいもののお陰なのだろう。
その正体は魔力。自分にしか感じることのできない、他人の魔力。それは色・温度など色々だが、暖かく柔らかい色の魔力を持つ人は、僕にとって安心できる人という何よりの証拠になる。夢の中で感じたのは、ふわふわと浮いているような感覚。そして、全身がす
っきりするような気持ちの良さだった。
でも、夢は現実とは関係ない。一つしかない窓の外を眺めると。狭い室内にそこから日が差し込んでいた。昇りきっていない低い位置にある太陽の光は、僕の顔にも当たってくる。周りが先ほどの夢で感じたものように暖かかった。
今日は晴れ。おそらく外には、綺麗な朝焼けの空が広がっているのだろう。けれど僕にとって、朝は苦手なものでしかない。今日もまた、朝がきていつもと同じ、生活(地獄)が始まる。
僕は溜息を吐くと動き出した。
「……っ‼︎……は、ぁ」
夢。
またしても暴力を振るわれていたのだが、今回は本当に死にそうだった。まずいと思った瞬間、僕は飛び起きた。
目が覚めた僕がいたのは、今までとは質が全く違うベッドの上だった。ここはどこだと考えて、ウェルストン公爵邸だと気づいた。そして、昨夜あったことを思い出す。
体を起こして隣を見ると、ベッドの本来の持ち主である姉様はいなかった。その代わりに、僕が寝ていた場所付近に一枚に布が落ちていた。手に取ってみると少し濡れている。
どうしてこんなところに布が、と思いながら、それを持ってベッドから降りる。途端に明るくなった視界に、慌てて時計を見た。
「六時、……」
昨日の夜に公爵様……父上に朝は六時半過ぎに使用人が部屋に来ると言っていたから寝坊した訳ではないだろう。いつもよりも目覚めたのが遅かったのは、天蓋のせいで普段ならば当たっていた光が届かなかったからだろう。
安心しながら部屋を見渡すと、部屋の主である姉様の姿はなかった。室内にある、二つ並んだ扉に近づき、片方をノックする。僕に与えられた部屋の間取りから考えても、これは浴室に通じる扉で間違いないだろう。
「姉様……?」
返事がなかったため、そっとドアを開けると、やはりそこは浴室だった。けれど姉様の姿はない。その代わり、姉様が着ていた服がかけられたハンガーを見つけた。どこか部屋の外に出たのだろうと判断して、扉を閉じる。
お邪魔させてもらっている僕が勝手に部屋を出て行っても良いのか判断しかねたため、昨夜も座ったソファに腰掛けて姉様の戻りを待つことにした。




