108 セドリックside.
「あの、」
「やはり碌でもない存在だったか。兄上の息子というから何かしらはおかしいだろうと思っていたが、こういう形だとは思っていなかった」
「……はい?」
「セドリック。お前は今日から部屋を移れ。今日は休ませてやるが、明日からは働いてもらうからな」
言われていることの意味が分からなかった。そして何より、父を悪く言われたことが許せなかった。
『二人だけの兄弟なんだから、出来ることならば仲良くしたいとは思っているんだが』
悲しそうだった父の言葉を思い出す。と同時に、そんな父の思いを汲むことなく、更に今でも父のことを嫌い抜く叔父に、怒りが湧いてきた。
「……聞いているのか?」
低い叔父の声にはっとする。この感情をぶつけたとしても、彼等にとっては何も響かないだろう。鼻で笑われて、更に両親を悪く言われる未来しか見えない。それなら、何も言われずにやり過ごした方が良い。
僕は唇を噛んで、迫り上がってきていたものを呑み込んだ。
部屋に戻ると、しばらくして一人の使用人が来た。叔父に移動先の部屋に案内するようにと命じられたのだそうだ。
馴染みのない顔には未だに慣れない。両親が生きていた時にこの屋敷で働いていた人達は、叔父が爵位を継いでここで暮らすようになってからほとんどが追い出された。残っているのは立場の強いメイド長や、カウゼル侯爵家に長い間支えている家令ぐらいだ。叔父の言う、「兄上が遺したもの」には、父が雇っていた人達も含まれるらしい。
それを知った時には、正気だろうかと叔父の気を疑った。急に職を追われる使用人達の生活のことは考えているのだろうかと、逆に叔父を心配してしまったぐらいだ。それに加えて、不可解な理由で仕事を奪われた彼等の心が侯爵家から離れてしまうかもしれない。
良い人達だったのにと思いながら、それでも僕でも思いつくようなことを、叔父が考えない訳もない。領地に住む人達からの支持など関係ないと思っているのか、それとも彼等の心を離さないようにするための策でもあるのか。
どういう精神をしているのか、父ならそんな意味を感じられないことはしなかったのにと考えてあることに思い至った。叔父にとって、今の僕のように父と比較されることが嫌なのだろうなということ。それは仕方のないことだとは思うけれど、叔父は幼少期からそういう経験を繰り返してああいう性格になったのだろう。
周りから見知った顔が消えた時にはそんなことを考えたなぁ、と自分の前を歩く使用人に着いていきながら思い出した。




