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107 セドリックside.








「兄上が遺したものは何もいらない。今この屋敷の主人は私だ」

「ちゃんとしなさいよ、化物。貴方みたいなモノを受け入れてくれるのは私達以外にはいないの。それを理解しているのかしら?」

「おい、今日も訓練(・・)付き合えよ」

「あーあ、かーわいそ。……あ、後でこれもやっといてねー」


 侮蔑を含んだ冷たい視線。使用人としての仕事を更に重ねてきながらも自分のことを嘲笑っているその表情。


 そんなものにはもう慣れてしまった。





 僕はセドリック・カウゼル。侯爵子息だった。


 堅実な父と穏やかな母。優しい両親の下で育った僕の生活は、突然転機を迎えた。両親が死んだのだ。原因は馬車の転倒事故。屋敷で両親の帰りを待っていた僕だけが残された。


 一人になった僕は叔父に引き取られた。父の弟である彼は、昔から父とは折り合いが悪かった。


「悲しいことに、クラークは私のことを彼は嫌っているからね」


 父が生前そう言っていたのを覚えている。


 そんな兄の息子など、叔父は引き取りたくなかったらしい。顔は母に似ている僕だけれど、髪と目の色は父と同じだったから僕を見ると父の姿が連想されるのだろう。


 叔父の妻、つまり僕の叔母は元々は子爵令嬢だったらしい。叔父と結婚して侯爵家に連なる者となり、そして今回叔父が爵位を継いだことで侯爵夫人となった。野心家な彼女にとってはそれが喜ばしい出来事だったのだろう、僕を見下し嘲るような態度を取ることが増えた。


 そんな訳で僕の侯爵家での暮らしが始まったのだが、当然叔父達が僕のことを尊重するはずもない。


 食事はもちろん別、必要最低限のものしか与えることはない。僕が視界の中に入ると顔を歪められた。


 始めの頃は自分の生活が百八十度変わり、生きづらくなってしまったことに対し、優しく明るかった亡き両親との生活を思い出しながら軽く絶望していた。けれど、その程度で絶望する、なんていうのは甘かったらしい。

 

 僕が叔父達と共に生活し始めてからしばらくが経った頃。季節は夏に移ろっていて、湿気の高い暑い日だった。


 涼しい風を生み出して自らに当てることで、火照る体を冷やそうとしていた僕は、その様子を叔母に見られた。


「……魔法、ですって……⁈」

「……?」


 血相を変えてどこかへ行った彼女を見て、残された僕は首を傾げていた。


「魔法が、使えるそうだな」

「……?はい」

「やっぱりこの子は化物よ!最初から、この態度が薄気味悪いと思ってたわ」

「……え」


 化物。その言葉を頭の中で反芻する。今、叔母(この人)は僕のことをそう言ったのだろうか。聞き間違いではない。そんな配慮などはなから僕に対して持ち合わせていないだろうし、聞き間違いをするような言葉でもない。それに、今この場で叔母がそんなことを言いそうな対象は僕しかいない。


 疑問符を浮かべる僕は、叔父からの冷たい視線に気がついた。彼の僕を見る目が冷たいのはいつものことだけれど、今日は普段とは何かが違った。







初の主人公以外の視点です!

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