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泣き疲れたのだろう、しばらくしてからセドリックはわたしの肩の上に顔を乗せたまま眠ってしまった。
「疲れてたんだろうなぁ……」
初めて来た場所、わたしを含め初めて会った人達。そんな今までとは違うことだらけの状況下にあれば、精神的に不平するのは当然だ。
「普通に寝れそうで良かった……」
すぅすぅという、穏やかな寝息に安心する。
「でも、とりあえずは……」
セドリックをベッドまで動かそうと思う。このままソファで寝させる訳にはもちろんいかないし、かと言ってわたしがソファで寝るのも嫌だ。
……なんか転がり落ちそう。その衝撃で目覚めるとか絶対やだもん。
寝相が悪いとかそういう訳ではなく、普通に寝るには少し幅が足りないのだ。寝転がるだけなら普通にできるけれど、寝ている間に動くかもしれないということを考えると、できれば避けたいのが本音だ。
結論。一緒に寝ようと思う。
……ベッドは十分広いし、まだ子供だから許されるでしょ。
わたしは魔法でセドリックを浮かべ上げ、そのままベッドへと運んだ。
魔法で運べるならセドリックの部屋まで戻れば良いじゃないかという意見が聞こえてきそうな行為だけれど、流石に理由はある。
……この状態のセドリックを一人にはできないからね。
ベッドに寝かせたセドリックを一度見やってから、わたしはローテーブルへと戻った。
「……あ。セドリック、ちゃんと全部飲んでくれてる」
カップとティーポットを片付けようと目をやると、セドリックのカップの中にあったお茶は無くなっていた。
……まぁ元々カップの四分の三ぐらいしか淹れてなかったんだけどね。
それでも、飲み残さないでくれたおかげで片付けが簡単になった。
わたしは水鏡と名付けた監視用魔法を使って調理場を見渡した。
監視用などと言ってはいるが、実質は覗き見のための魔法である。目的の場所に人がいないかを確認するためにはうってつけなのだが、あまり誉められたことでないのは認識済みである。
……便利だけど、いくらでも悪用でちゃうからね。
今回わたしが調理場の様子を覗き……もとい確認したのは簡単な理由からだ。
「……人はいないみたいね」
調理場に行って使ったカップ等を洗ってしまいたかったからである。
洗浄魔法を使うという手もあるが、あれは汚れが落ちるだけでゴミを消してくれるなんて効果はない。だからカップはともかくティーポットは洗えないのだ。
という訳で、部屋からそのまま調理場に移動した。
……この時間帯に部屋の外を出歩いてる姿はあんまり目撃されたくないんだよね。何やってたんだって話にになるし。
魔法で明るい火を作り出し、誰もいない静まった調理場でカップを洗う。
「よし、戻ろう」
水に濡れたカップ達を乾かしてから、わたしは再び部屋に戻ったのだった。
そろそろ寝よう、と考えてベッドに歩み寄れば、セドリックは穏やかな顔で眠っていた。
「目、腫れるかしら……」
静かにとは言え泣いたのだ。少しだけ赤い目元を見ていると、セドリックを化物と罵ったという彼の叔父とその家族にふつふつと怒りが沸いてきた。
……引き取ってやったことを感謝しろ、だっけ?両親を亡くしたばっかの子にいう台詞がそれっておかしくない?
他にも怒る要素は沢山あるけれど、そんな人達のことを考えるために時間を使うという行為が物凄く無駄に思えてきた。
……とりあえずその人達からは引き離せたから良いとして。
セドリックは公爵家の養子になる訳だから身分差もできる。そう考えれば大丈夫だとは思うけれど、完全に安心する訳にはいかない。
「……次、セドリックを傷つけるようなことをしたら許さない」
公爵令嬢としての立場を乱用してでも、後悔させて謝らせる。
そう決めて、小さく呟いた。
可愛いセドリック君(同い年)に甘くなっているセレスティーナさんです。




