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「……僕のこと、怖くないんですか?」
そんな質問に、わたしは黙って首を横に振った。
「怖いなんて思う訳がない。どうしてそんなこと思ったの?叔父様達が貴方の力のことを恐れて邪険に扱ったから?」
わたしがそう言うと、セドリックは数秒間の沈黙の後に頷いた。
……まぁ、人が理解できない力を恐れるのは古今東西どこでも同じなんだろうけどね。
「でもセドリック。わたしだって魔法を使えるけれど、それも今の年齢を考えれば普通ではないんでしょう?貴方はそれについてわたしを怖いと感じる?」
「……いいえ、怖くないです」
「それと同じだと思うわよ」
そう言いながらも、わたしは心の中で安心していた。
……良かった、怖いって言われなくて。
「魔法を使えて、他人の魔力を見ることができるという理由だけで貴方を恐れるのであれば、その人はただの馬鹿。そう考えれば良いと思うわ。だってわたしなんて、貴方の力は羨ましいと思えるもの」
「羨ましい、ですか?」
セドリックが困惑している気配がする。
「力のせいで辛い思いをさせられたセドリックにこんなことを言うのは申し訳ないけれど、その力を使ってできることも多いと思うの」
「この力で、できること……」
「そうね、例えば……男の人は誰かと戦うこともあるでしょう?そんな時に相手が魔法を使ってくることが分かっていればそれだけでかなり有利になる。少なくとも貴方に麻痺腕に不意打ち攻撃は通用しなくなるもの。しかもタネが分かったとしても相手には同じことはできない訳だから、実質対処法は魔法を使わないことしかない」
……え、かなり羨ましいんだけど。
自分で言ってから気づいた。
この戦い方が魔獣にも通用するのは間違いないと思う。魔獣の戦闘法は魔法に頼ったものだから。
「他にも色々とあると思うけれど、悩んでいたってなくなる訳じゃないのだから、捉え方を変えれば良いんじゃないかしら」
「捉え方を、変える……」
「ねえ、セドリック。わたしはね、自分に備わった力は有意義に使った方が良いと思うの。力にせいで誰かを傷つけてしまうというのであれば問題だけれど、その場合は制御できるようになれば良いだけだし、セドリックぼ力はそんなものじゃないでしょう?」
魔法で誰かを傷つけるとしたらそれは意図して行ったか魔力の暴走によって起こる無意識の魔法使用によるもののどちらかだ。
「セドリックがこんな力は要らないと言って使わないのなら仕方がないけれどね」
正直勿体無いとは思うけれど、という言葉は胸の中に留めておく。
「何もしれないわたしの考えを言わせてもらえば、貴方のご両親だってその力は駄目なものだとか、化物だとか、そういう否定的なことは仰らなかったんじゃないかしら?」
「……はい。僕には魔法の才能があるとか、凄いとか、そんなことを言われました。まるで自分のことかのように、喜んでくれたんです」
寂しさと悲しさ、そして懐かしさを一緒にしたかのような複雑な表情を浮かべるセドリック。
「ならその言葉を信じれば良いと思うわよ。貴方だって、今日知り合ったばかりのわたしの言葉が受け入れられなかったとしても、ご両親の言葉だったら信じられるのではないかしら?」
泣きそうな顔になったセドリックを、わたしは再び抱きしめた。
「これからも貴方の力について何か言ってくる人はいるかもしれない。でもそんな時は、ご両親の言葉を思い出せば良いと思うの」
どんな人間なのか知りもしないで上部だけで判断して人を悪し様に言うような人の言葉なんて、虫の羽音だとでも思って無視すれば良い。
わたしがそう言うと、セドリックが沈黙した。
……公爵令嬢の発言として、虫の羽音はアウトだったかな?
「……それでも辛い時は、その気持ちをわたしに全部ぶつけてもらって構わないわ。どんな愚痴だろうが、誰かに対する恨み言だろうが何だって聞く。心許ない言葉をかけられたのならその都度わたしがそれを否定するから」
これからはわたしがセドリックを辛い目には遭わせないようにする。
そんなことは約束できない。破るかもしれない約束はしたくないのだ。
できるだけ防ぐとは言っても、ずっとセドリックと一緒にいることができない以上、わたしの目の届かないところで何かされる可能性がないとは言い切れない。
だから。
「だからね、セドリック。わたしを、いつでも頼って」
わたしの言葉の数秒後、セドリックが肩を震わせた。泣いているらしい。肩に雫がついて濡れていく。
わたしは無言でセドリックの背中をさする。
抑えていた声が大きくなり、きちんと泣き声が聞こえるようになるまで、それほどの時間はかからなかった。
……でもまだ声は小さいんだよね。ちゃんと我慢しないで思うままに泣けるようになれれば良いんだけど……。
そんなことを考えながらも、わたしはセドリックの背中を撫で続けた。




