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 わたしはまず一番近いアルバートお兄様の部屋に向かったのだけれど、ノックをしても返事がなかった。


「……いらっしゃらないのかしら?」


 彼が部屋にはいないと判断したわたしは、ウィリアムお兄様の部屋に行くことにした。


……アルバートお兄様にはウィリアムお兄様から伝えてもらえば良いよね。


 そんな訳で、わたしは隣の部屋の扉をノックする。こちらはちゃんと返事があった。


「誰?」

「セレスティーナです」

「……入って良いよ」


 少しの間の後、入室を許可する言葉をもらったので、わたしは扉を開けた。すると、ソファから立ち上がったウィリアムお兄様がこちらに向かって歩いてきた。向い合せのもう一つのソファには、アルバートお兄様が。


……こっちにいたのか。


「どうかしたの?」

「お父様からの伝言を預かってきたんです」

「父上からの伝言?父上が帰ってきてるの?」

「はい。執務室まで来るようにとおっしゃっていました」

「……それは、俺もか?」


 アルバートお兄様からの言葉に、わたしは頷いた。


「はい」

「分かった、今から行くよ。セレスティーナはもう父上とは話したの?」

「そう。伝言ありがとう、セレスティーナ」

「いいえ。お兄様、セレスティーナ」


 自室へと戻ったわたしは、読書を再開した。今手元にある本を読み切ってから寝るつもりなのだ。


「……あら?」


 図書室に今日読んだ本を返し、明日の分を何冊か抱えて部屋へと戻る途中だったわたしは、セドリックの部屋から光が漏れていることに気づいた。


 わたしが本を読み始めてからしばらくが経っているので、お父様との話も終えてもう寝ていると思っていたけれど、そんなこともなかったらしい。


 図書室へ行く時はまだ廊下が明るかったので気づかなかった。この屋敷では、夜十時をすぎると廊下の明かりの量が減ってあたりが薄暗くなる。だからこそ気づいたことだった。ちなみに、朝には明るい照明、つまり白っぽい光がつく。そして、夕方になると暖色の照明になる。


……声をかけた方がいいかな?もし明かりを消さないで寝ちゃったとかならそれはそれで照明を消さなきゃいけないし……。


 もしかしたら、生活する場所が変わったことで眠れていないのかもしれない。


 わたしは一度部屋に本を置くと、セドリックの部屋を訪れた。小さくノックをすると、やがてゆっくりと扉が開けられた。


「セレスティーナ、姉様」

「起こしちゃった?そうだったらごめんなさい」


 わたしの言葉にセドリックはふるふると首を横に振った。


「いいえ、起きてたので、大丈夫です」

「なら良かったわ」

「姉、様は、どうしてここに?」

「たまたま部屋を出たら貴方の部屋から明かりが漏れていたの。消し忘れたのかと思って少し心配になって」

「そう、ですか」


 そう言って、セドリックは視線を下に向けた。その様子に、わたしは自分の予想は当たっていたのかもしれないと思い至る。


「もしかして、眠れない?」

「……ごめんなさい」


 何故か謝罪の言葉が返ってきたけれど、わたしの予想は当たっていたらしい。


「謝ることじゃないわ。環境が変わったのだから、慣れないうちは仕方ないもの」


 でも、と呟いて、わたしは頬に手を当てた。


「眠れないのは問題よね。体にも良くないでしょうし……」


 どうにかしてセドリックが寝れるようにできないだろうか。


「……あ」

「姉様?」

「セドリック、わたしの部屋に来ない?一緒に寝れば少しは眠れるようになると思うのだけれど……」

「姉様のお部屋、ですか?」

「ええ。……もちろん、セドリックさえ良ければ、なのだけれど」


 わたしの提案に目を瞬かせたセドリックは、不思議そうな表情を浮かべた。


「いえ、あの、……姉様は、よろしいのですか?」

「わたし?わたしは別に構わないわよ。歓迎するわ。セドリックの方が心配だもの」

「……じゃあ、お邪魔したいです。姉様のお部屋」

「じゃあ行きましょう」


 扉近くの壁に埋め込まれていた魔石に触れる。天井からぶら下がるシャンデリアの蝋燭に灯っていた火が消えた。


 わたしはセドリックの手を取ると、開いていた扉を閉め、自分の部屋へと彼を連れていった。


……連れていくって言っても、わたしの部屋ってセドリックの部屋のすぐ隣なんだけどね。


「……えぇっと、そこに座っていてもらえるかしら?」


 セドリックにはソファで待っていてもらい、わたしは隣の部屋(洗面台)にある棚からティーポットとティーカップを取り出した。


……誰かが部屋に来た時のためにカップとか受け皿とか茶葉とかいろいろ用意しておいたのは正解だったね。


 ちなみに、それらが部屋でなく洗面台にあるのはリーナがそう決めたからである。本来であれば、公爵令嬢であるわたしが自分でお茶を淹れるのはあまりよろしくないことらしい。


「私個人の意見としては、お嬢様がお望みになっていることですから叶えてさしあげるべきだと思いますけれど、あまり表面に出すのは良くないのです。こちらであれば人が入ってくることもなかなかありませんし」


 だそうだ。


……まぁ、お茶淹れてるところとかって、わざわざ人に見せるものでもないしね。


「できたかしら」


 出来上がったお茶をお盆の上に置いて、セドリックが待つ隣へと戻る。


「はい、どうぞ。わたしが淹れたもので悪いけれど……メナフェスっていう植物から作ったお茶よ。安眠効果があるから、ちょうど良いと思って」


 実はこのメナフェス、孤児院で育てられたものである。



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 わたしが提案した薬草・香草の栽培が現在孤児院の庭で行われることになった。二割ほどを孤児院で保管し、残りを薬に加工して販売するのだそうだ。


 ただし、当然のことだけれど薬はきちんと効き目がないと買い取ってはもらえない。どうすれば良いのか悩んでいたマーサにわたしはあることを提案した。


「あの、マーサ。わたしがギルドで売ってきましょうか?一応冒険者としての資格は持っているから……」

「……え?よろしいのですか?」

 ギルドでは専用の道具を使って効果を調べることができるのだ。薬がきちんとできているかを調べるにはうってつけだろう。


 他にも方法はあることはあるのだけれど、ギルドに行くのが一番簡単で早い。ギルドに行かなければいけない用事があれば一緒にダンジョンにも行くことになるのでちょうど良い。


「……もちろん。アンザみたいに横領というか金額をごまかしたりなんてしないわ」

「いえ、そんな心配はしておりませんが……アンザ様、ですか。今となっては少し懐かしいですね」


 しみじみとした口調でそう言ったマーサ。


「確かにそうかもしれないわね。それほど時間は経っていないのだけれど……」

「……セレナ様。その件、お願いしてもよろしいでしょうか?私も、他にあてなどありませんので……」

「分かったわ」


 そしてマーサは、わたしが薬を持っていく度に、得た利益の二割を渡すと申し出てくれた。


「そんなに良いの?むしろもらわなくても良いぐらいなのだけれど……」

「いえ、大丈夫です。セレナ様のお時間をいただく訳ですし、薬の育て方や栽培に向いた品種を教えていただきましたから」

「……そう。じゃあ遠慮せずいただくわね」




______

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 そんなこんなで今までにだいたい二十回ほどなので、なんと大金貨が二十枚分ほど貯まっている。


……ありがたいんだけどさ、二十回で二十枚って凄いよね。二割だから、全体だと……百枚?年間五十枚か。


 薬を育て始めたことで孤児院の経営状況が大分良くなったのは考えるまでもないことである。


 わたしが記憶を引っ張り出している中で、セドリックはお茶を一口飲んだ後、目を見開いたまま固まっていた。


「セドリック?」

「あ、はい」

「もしかして、お茶苦手だったかしら?美味しくない?」


 心配になったわたしが尋ねると、セドリックは慌てたように首を振った。


「いえ、そんなことは!ただ、これを姉様が淹れたということにびっくりして……」

「ふふ、リーナに教えてもらったの。あ、リーナはわたしの侍女よ」

「そうなんですか……。でも、どうして?」

「え?」


 首を傾げると、セドリックは詳しく言い直してくれた。





お久しぶりです!

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