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「セレナに、弟ができるんだ」
「……おとう、と?」
その言葉に、思考が一度止まった。
わたしの耳がおかしくなった訳ではないのであれば、今お父様は、わたしに弟ができると言ったような気がする。
……え、弟?お母様はもう亡くなったのに?……再婚するとかそういうこと?
「どういうことでしょうか?お母様は……」
「すまない、混乱させてしまったね。詳しいことを話そう。……実は、弟とは言っても、セレナと血が繋がった本当の弟ではないんだよ」
お父様によると、その弟になるという子はお父様とお母様の友人の息子なのだそうだ。両親を事故で亡くし、その後は親戚に引き取られていたらしい。
親戚のもとにいたのなら、どうしてお父様がまた引き取る必要があるのかと聞いてみると、
「……その親戚のところで色々あってね。養子にすることにしたんだ。この三日間は、彼を引き取るために外出していたんだ」
との言葉が返ってきた。
「セレナには仲良くしてくれると嬉しいんだけれど、弟ができるのは嫌かい?」
そう不安そうに尋ねられ、わたしはゆっくり首を振った。
確かに驚きはしたけれど、何やら事情もありそうだ。それに、わたしは一人っ子だったので、弟という存在に憧れてもいた。
「……いいえ。弟がほしいと、わたしも思ったことはあるのです。ですからわたし、その子のことを可愛がりたいと思います」
わたしの言葉に、お父様が嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、セレナ。君が優しい子で良かったよ」
「ところでお父様。その子は何歳なんですか?」
「実はね、セレナと同じ、七歳なんだ」
「!そうなんですか?」
「ああ。セレナのほうが、誕生日が十月ほど早いんだよ。だから彼は、七歳になったばかりだね」
なんと、同い年の弟になるらしい。
「会うのが楽しみです。屋敷にはもういるんですか?」
「ああ。もうそろそろ来ると思―――」
お父様の言葉の途中で、ノックの音が部屋に響いた。
「来たみたいだね」
お父様が立ち上がって扉を開ける。顔はお父様に隠れて見えないけれど、誰かがいる。
その子を連れてきた使用人が扉を閉めると、お父様はこちらを向いて体の位置をずらした。
「セレナ、紹介するね。彼が、君の弟になるセドリック。セドリック、こちらはわたしの娘のセレスティーナだよ。君とは同い年だ」
わたしの弟は、セドリックという名前らしい。
セドリックは、わたしと同じ金髪に、同じく金色の瞳を持つ可愛い少年だった。セドリックも、これまた美少年。
「……セレスティーナさま、これからよろしくお願いします」
そう言って頭を下げたセドリック。
わたしは立ち上がって彼の正面まで近づいた。そして、セドリックの手を取る。
驚いたように勢いよく顔を上げたセドリックに笑いかけ、わたしは口を開いた。
「これから貴方の姉になる、セレスティーナよ。わたしのことは、気軽に姉様とか姉上とか好きなように呼んでちょうだい」
そう言うと、目をじわじわと見開いたセドリック。
「これからよろしくね。何か困ったことがあった時は、遠慮せずに何でも言ってちょうだい。これからよろしくね」
「……はい。セレスティーナ、ねえさま」
セドリックは丸くしていた目を細め、ゆるゆると笑った。
……え、なに、この子。可愛い。
わたしがセドリックの可愛さに胸を打たれていると、わたしとセドリックのやり取りを黙って見ていたお父様が安心したように頷いた。
「二人共、しっかり仲良くできそうだね。良かったよ。……セレナ、私からの話はこれだけだ。わざわざ呼んで悪かったね」
「いいえ、大丈夫です。わたしは部屋に戻りますね。セドリックは……」
「セドリックは、まだここに残っていてもらう必要があるんだ。これからウィリアムとアルバートにも紹介しなければいけないからね。……ああ、あとセレナ。言い忘れていたけれど、セドリックの部屋はセレナの隣になるからね」
といことは、わたし、セドリック、ウィリアムお兄様、アルバートお兄様の順番で部屋が並ぶようになるということだ。
ちなみに、わたしの部屋は一番奥にある。
「分かりました。……お父様、部屋に戻るついでですから、お兄様にお父様が呼んでいらっしゃったとお伝えしましょうか?」
「いいのかい?じゃあお願いしようかな。ありがとう、セレナ」
「どういたしまして。……ではお父様、失礼いたします。おやすみなさい」
わたしはお父様に挨拶をし、セドリックにもう一度笑いかけてから執務室を出た。そして、お兄様の部屋へ向かう。
成長して言葉遣いがどんどんお嬢様らしくなっているセレスティーナです。




