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 首を傾げたわたしに、エドガーさんは苦笑した。


「ユリウス殿は、このギルドに所属する冒険者の中でも剣の扱いが上手いのですよ。剣士としてのレベルは、上から数えても五番目以内に入っています」

「そうなんですか?……でも確かにユリウスは強いですよね。華奢で知的な感じがするので、剣を使えると知った時は驚きました。稽古を始めてすぐの頃は手も足も出ませんでしたもの」


 稽古を初めた当日に、ユリウスにすぐ負けたわたしは、その後毎日毎日自主練習を重ね、どんどん内容を増やしていった。ユリウスと打ち合いをする度に、自分が強くなっていっていることが実感できたので、モチベーションが上がってとても良かった。


 人によっては諦めてしまうのかもしれないけれど、わたしは物事をマイナスに捉えることはできるだけしたくない。最初に惨敗したということは、伸び代がまだまだあるということだし、ユリウスが強いなら自分が追いつけばわたしも強くなれる。


 そう思って頑張っていたのだけれど、


……わたしが弱くてユリウスが普通に強いのかと思ってたけど、そういう訳じゃなくて、単純にユリウスがすごい強いだけだったんだね。道理で全く勝てるようにならない訳だ。


 勝てるようにならないといっても、今の時点で剣を交えていられる時間は確実に増えてきているし、少しは優勢になれることもあるので、勝つ見込みが完全にないとは言えないのだけれど。


 ほぅほぅと頷いていたわたしだったけれど、その時あることに気付いた。


「……ということは、わたし、そんな人材を一人で独占してしまっていたんですか⁉リーナもユリウスも、このギルドにとっては大事な冒険者ですよね?」


 この前ダンジョンに来た時も、強い強いとは思っていたけれど、彼等はテストの時点でAランクだったのだから、始めから強かったはずだ。


 というか多分、ウェルストン公爵家に来てからは自分を鍛える時間などほぼなかったと思うから、その時は今よりも強かったのではないだろうか。


 そんなリーナとユリウスを、わたしのような子供のお守りに雇ってしまっても良いのだろうか。


……あ、でもお父様はそれを知っててリーナとユリウスを勧誘したんだっけ?エドガーさんも引き留めようとしてないから別に良いのかな?


 そんなわたしの疑問を見透かしたかのように、エドガーさんが頷いた。


「……まぁ、そうですな。リーナ殿とユリウス殿は確かに強い。ここで冒険者として活動していてもらったほうがいざという時には助かります。ですが、公爵様がお決めになって、二人が自分で決めたことなのですから文句を言うつもりはありませんよ」


 そう言ってから、彼はリーナとユリウスに視線をやった。


「それに……、二人共、今の仕事を楽しめているようですし。そうでしょう、二人共?」


 その「楽しんでいる」という言葉に、わたしは驚いて二人を見る。二人は笑みを浮かべると、やがて頷いた。


「……やはりマスターには敵いませんね。確かに私は、セレスティーナ様と過ごさせていただく日々を楽しんでいます。セレスティーナ様は、毎日私に驚きを与えてくださいますから。今までの退屈さが嘘のようです」

「私も同じです。お嬢様の賢さ、お優しさ、清らかさ、そして美しさは日に日に増していらっしゃいます。以前のお嬢様の、自分の希望を叶えるために手段を問わないところもとても素晴らしかったのですが、今のお嬢様も……」

「ちょ、ちょっとストップ、リーナ」


 滔々(とうとう)と語りだしたリーナの言葉を、わたしは慌てて遮った。


 いつも冷静なリーナが急に流れるように話し出したことに驚いてぎょっとして言葉を止めたけれど、それで正解だったような気がする。


……え、リーナってこんな感じだったっけ?ていうか「以前」ってわたし(玲奈)今のわたし(セレスティーナ)になる前のことだよね?


「どうなさいましたか、お嬢様?」


 言葉を無理に止められたというのに、リーナからは不快の感情は微塵も感じられない。


「いや、どうしたというか、……」


……リーナってそれほどわたしを慕ってくれてるの?全然気付かなかったんだけど……。


 何と言えば良いのかがよく分からず、言葉を詰まらせたわたしを見て、エドガーさんが声をあげて笑った。


「セレスティーナ殿はリーナ殿にかなり気に入られているようですね。……いや、気に入るというより、愛されているというべきか。リーナ殿のそのような様子は初めて見ました」

「ええ。一使用人である私ごときがお嬢様を気に入るなど、おこがましいにも程がありますが、お嬢様が尊敬する主であるということは間違いありません」


「えぇ……?」


 これは本当にリーナなのだろうか。いつもと違いすぎて、断言しがたい。


……断言しがたいというか、分からないというか。わたしが気付いてなかっただけで、いつもこうなの?


 わたしが感じたある意味至極当然な疑問は、ユリウスの言葉によって解消された。


「リーナがセレスティーナ様至上主義であることは、ウェルストン公爵家ではある程度知れ渡ったことですよ。旦那様でさえ、知っておられると思います」


……ちょっと待って、今ユリウスさらっと凄いこと言わなかった?「セレスティーナ至上主義」?


「……そうなの?今初めて知ったのだけれど」


 わたしが鈍いだけだろうか。そうだとするならば、何気にショックなのだけれど。


「セレスティーナ様の前ではかなり冷静ですが、一度始まってしまえばなかなか止まりませんから」

「……そうなのね」


 それ以外に何と言えば良いのか。


 わたしは気恥ずかしさを誤魔化すようにして、エドガーさんに新しい話題を振った。


「……えぇと、エドガーさん。今日はあとどれほどで登録証が出来上がるのでしょうか?」

「もうそろそろだと思いますよ。あと十分ほどでしょうか」

「そうですか」


 どうやら夕食の時間には間に合いそうだ。時間があるとは言えないけれど、十分ほどであれば問題ない。


 もし間に合わなそうであれば、後日登録証だけ取りに来ても良いか頼もうと思っていたのだけれど、その必要はなさそうで安心した。





 ******






 その後、わたしはB冒険者の登録証を受け取り、ギルドを後にしたのだった。








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