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「まず一つ、謝罪しなければなりません。Bランクテストにて、魔獣が複数体転移されてしまったとの報告を受けました。原因解明の調査を行ったところ、魔法陣の時間経過による劣化が原因であるようです。申し訳なかった」


 そう言って、エドガーさんが頭を下げた。


「その点については気になさらないでください。こうして無事に終えることができていますし、わたしの経験にもなりましたから」

「ありがとうございます。そう言っていただけるとありがたいです」


 顔を上げたエドガーさんがほっとしたようにそう言った。


「セレスティーナ殿のランクですが、Bランクではなく、Aランクからのスタートとさせていただきたいと考えております。どうでしょうか?」


 そして、予想もしていなかったことを言ってきた。


……えーと、これはあんまり良くない流れかも。


「……あの、一番初めに登録した時のランクがAランクだと、お父様……領主との顔合わせをしなければいけないという話を聞いたのですが、それは本当でしょうか?」

「ええ、そうですね。それがどうかなさいましたか?」


……あぁ、多分この反応は、わたしがお父様に内緒で冒険者になろうとしてるってことに気付いてないっぽいね。


 言っていないのだから当たり前といえば当たり前なのだろうけれど、こうなると一からきちんと説明する必要が出てくる。


「エドガーさん。わたし、実は、冒険者になることをお父様には内緒にしているのです」

「……そうなんですか?」

「はい」

「……よろしければ、理由をお聞きしても?」

「お父様は、ですね。少し、過保護なのです。わたしがお母様の忘れ形見であることも理由の一つかもしれないのですが、わたしが誕生日に自由に外出できるようにしてほしいとお願いした時も、危険だからといって渋られました。そんなお父様に、冒険者になりたいなどと言い出せば、確実に止められると思ったのです」

「なるほど……。それは確かに一理ありますな」


 そう言って顎を撫でるエドガーさんだったけれど、ふと真顔になった。


「ですが、セレスティーナ殿がそこまでして冒険者になりたがる理由が分かりませんな。失礼かもしれませんが、公爵令嬢であるセレスティーナ様であれば、別に自ら動かずとも自由に生きていけるのではございませんか?」


 その言葉にわたしは頷く。


 そして、これは先日リーナとユリウスにも話したことなのですけれど……、と前置きしてから、


「確かにわたしは、公爵家の娘として何不自由なく生活させてもらっています。ですが、それはわたしの力によるものではありません。当然のことですけれど、現ウェルストン公爵家当主であるお父様、そして今までの当主の方々が築きあげられた功績があってのことなのです。たまたま、わたしがウェルストン公爵令嬢として生まれてきただけ」


 わたしの説明を、エドガーさんはところどころで頷きながら聞いていた。それでも、また更に不思議そうな顔を浮かべる。


「ふぅむ……。ですが、貴女が公爵令嬢として生を受けるのは、そういう運命だったのではありませんか?そう考えて生活なされば良いのではないでしょうか?」

「……人生とは、いつ何が起こるか分かりません。わたしはそう思います」


 わたしだって、野中玲奈として生きていた時はそういう風に考えていた。


 辛いことや悲しいことなど、悪いことが怒った時には「そういう運命なのだ」と考えることで乗り越えることができたし、嬉しいことが怒っても、素直に喜ぶだけでなく、調子に乗りすぎないように自分を戒めてきた。


 けれど玲奈わたしは死んで、セレスティーナとして生まれ変わった。わたしはそのことで、変わらないことなどないと気付いたのだ。


……そういうの何ていうんだっけ?ああ、「無常観」だ。


 「運命」で片付けることは、時には有効だと思う。でも、全てをそれに頼って生きていくことは絶対にできないのだ。


 結局、自分の未来を決めることができるのは自分しかいないと思う。


……わたしの場合は生まれ変わったって言っても、本当に生まれ変わったのか、他人の記憶が流れ込んできて人格が変わったのか、どっちなのかよく分からないんだけどね。


 そこまで考えて、わたしは言葉を続けた。


「もしかしたら明日、貴族としての身分なんていらなくなるかもしれない。もしかしたらいつか、わたしは貴族として生きていけなくなるかもしれない。……そういう、まさかという事態に備えておきたいのです」


 そう言ってから、わたしは今までやってきたことを言っていく。


「いつどうなっても自分で自分を守ることができるように、自分の力で生きていけるように、準備をしておきたい。そこでまずわたしは、自分を、ひいてはわたしの大切ナ人達を守ることができるように剣術を習い始めました。先生はユリウスです」


 わたしが手を出してユリウスの方に向けると、エドガーさんは驚いたように目を丸くした。


「本当ですか、ユリウス殿?」

「はい。セレスティーナ様は強くなるのがお速いので、そろそろ私では相手にならなくなりそうです」


 ユリウスの返事に、更に目を見開いたエドガーさん。


「……どうかなさいましたか?」

「いやはや……驚きました」


 その言葉に、わたしは首を傾げた。










次回の投稿は同じく来週になると思います。

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