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「ウィリアム様、教えてくださりありがとうございます。わたしはこの通りこれまでの記憶がありません。これからいろいろなご迷惑をおかけすると思いますが、その際には指摘してくださると嬉しいです。ウィリアム様、アルバート様、これからよろしくお願いします」
わたしの言葉を聞いて、二人は信じられないものを見たような目をした。ウィリアム様の方はほんのかすかにだけれど。
「……セレスティーナ、僕達は兄妹なんだから様付けじゃなくて良いんじゃないかな」
ウィリアム様のその言葉で、二人が何に驚いていたのかが分かった。恐らく彼等は、わたしが兄である二人を様付けしたことに違和感を抱いたのだろう。
「……それでは、兄様と呼ばせていただいてもよろしいでしょうか」
「うん。アルもそれで良いよね?」
「……ああ」
「ウィリアム兄様、アルバート兄様、貴重なお時間をいただき、ありがどうございました。わたしは部屋に戻らせていただきますね」
そうして、兄様達とのお話を終えたわたしは、彼等の部屋から出たのだった。
「ではお嬢様、この屋敷の中をご案内させていただきますね」
「ええ。よろしくお願いするわ」
「こちらは手前から順に大広間、小広間、応接室、食堂、料理場、使用人用食堂、使用人部屋です。応接室は全部で二つあります」
今、わたしはリーナによる屋敷の案内を受けていた。
この屋敷は三階まであり、基本的に天井が高い。一階は高さが五メートル近くあるのだ。そして、一つの階がとても広い。
一階は部屋が七種類とそれだけでも多いのに、大広間はとても広いのである。先程見せてもらったけれど、わたしの部屋の三倍くらいの広さはある。大広間では貴族を招いてパーティーをすることもあるらしい。
そして、使用人部屋もいくつもある。ウェルストン公爵家では、使用人は全部で六十人以上いるらしい。だから、一部屋を八人くらいで使っていても七部屋以上は必要になる。
そんな広さを持つ階が三つあり、更に広い庭まであるのだから驚きである。公爵家、どれだけ広いの?!とわたしが思ってしまったのは仕方がないだろう。
ちなみに、庭には小さな池もあり、ガーデンパーティーやお茶会をすることなどもあるらしい。
「二階には、セレスティーナ様、アルバート様、ウィリアム様の寝室と図書室があります。空き部屋は二階が一番多いですね」
「図書室!?この屋敷には図書室があるの?!」
「は、はい。三階にももう一つございます。三階の図書室は、ここ何年かで新しくできたものなので、まだあまり本は溜まっていませんが……二階の図書室は随分昔からあるので、本も多いです」
家に図書室があるということに驚いて一瞬取り乱してしまったわたしだったが、そのことに感動した。だって、家に図書室があるということは、いつでも自由に本を読めるということだから。しかも、一つだけでなくて、二つとか……。
本好きのわたしとしては、とっても嬉しいことなのだ。
今度、できるのならば今日にでも行ってみようと思いながら、引き続きリーナによる案内を受ける。
「三階には、音楽室、旦那様の執務室と寝室、客間が三つ、二つ目の応接室、それに先程申しました図書室があります」
「……音楽室とは何かしら?普通に、音楽をする部屋ということで良いの?」
「はい。ピアノやヴァイオリンなどの楽器が置かれており、ウェルストン公爵家の御方ならばいつでも利用することができるようになっています」
わたしは前世で一時期ピアノを習っていたので、久しぶりに弾いてみたいと思った。最近は二、三年くらい忙しくて弾けていなかったからだ。昔と同じように弾けるかは分からないけれど、誰かに聞かせるわけでもないのだから良いだろう。
そんなことを考えていたわたしだったが、ふとあることに気づいた。
「……リーナ、わたしのお母様はどうしたの?この屋敷にもお母様のお部屋はないように思えるのだけれど」
リーナによる部屋の紹介の中にも、セレスティーナの母のことは出てきていなかった。
「……お嬢様のお母様は、お嬢様はお生まれになってからしばらくして亡くなられました。もともとお体の弱い御方でしたから」
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。