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奇跡男

作者: はやまなつお

1 相談


「ええと、ですね・・・奇跡、というものについてどう思いますか?

あ、あの、別に宗教の勧誘とかでは無いですから」


私はボランティアで地域相談役をしている。


定年まで勤めて、人口密集地にばかりいたので、うんざりして、

海辺の田舎町、A町に引っ越した。


町内会の役員を引き受けて、真面目な性格だったので軽犯罪者たちを

動画撮影して警察に突き出すのが日課だった。


A町の町民センターで悩み事相談係。大抵は近所トラブルなど喧嘩の仲裁。

警察とも顔なじみなので事件性があれば報告して逮捕。


今回の相談者は50歳くらいの真面目そうな小男。


まず最初の会話が奇跡についての質問。


「そうですねえ。奇跡といえば・・・まず思いつくのはモーゼが海を割って民衆を逃がして、

追っ手が来たら、海を元に戻して溺れさせる、映画「十戒」の1場面ですね。


他はイエスキリストが手を触れるだけで病気を治す、とか、キリストが十字架で処刑されたのに

復活するとか。ゾンビかバンパイヤみたいですが。そんなイメージです」


小男

「ええ、そういうありえない奇跡です。

 その・・・実は3日前から奇跡が急に起こせるようになってしまって」


私「・・・・・・・」


小男

「疑うのはわかります。話より先に実際に、お目にかけましょう。

 ええと。もうすぐ昼時だから・・・。チャーハンよ、出ろ!」


2人の間のテーブルに、皿に盛られて湯気の出ているおいしそうな炒飯が出現。


「・・・・・・」私は驚いて声も出ない。


「スプーンが無いですね。中華匙がいいですか?」


「・・・どちらでも」


「中華匙とお茶、出ろ!」


皿の横に中華匙、お茶が入った陶器のコップが出現。


「テレポート・・・瞬間移動?」


「いえ、違います。無いものでも命じると出せる、というか、

どんな無茶も・・・それほど試していないですけど・・・

奇想天外なことなので」


「確かに。では話を伺いましょう」


「えーと、ではこれは消して・・・食べられますけど、どうします?」


「いえ、消してください」


「では。食事よ、今は消えてくれ、キャンセル!」


チャーハン、中華匙、お茶が消えた。


「3日前の朝です。起きて、コンビニに食事を買いに行くのは面倒だな、

パッと出てこないものかねえ、と思ったんです。


すると・・・テーブルの上に朝食が、いつも買うメニューが現れたんです。

昼用の弁当も欲しい、と思ったら、よく買う弁当が出てきて。


とにかく、思うことが実現するのは危なすぎる、と思って

「思うだけで出るのは禁止、言葉に出して「出ろ」と言ってから出てくれ」

と声に出して言いました。


アラジンのランプの魔神が近くにいて私の思いを実現化してるようなイメージを持ったもので。


私はアルバイトや派遣社員で短期間働いては辞めて、引越しが多くて好きな場所で気ままに暮らしています。

はっきり言って貧乏でお金は少ない。


定職に就いていないから結婚も恋愛も無理。

車の運転もできない。教習所は、というか世の中全体イジメ社会ですね、うんざりです。


つまり時間はあるわけです。働いていないので。


とりあえず現金を20万円ほど出現させて。

財布に入れないほど出してもしょうがないですし。


何でも出せるのに、交換する印刷用紙を持ってても意味ない、と後で気づきましたけど。


とりあえず好きなマンガを出しました。


ああ、私はテレビ持っていないんですよ、テレビあるなら金出せ、

見ていようが見ていまいが関係ないっていうNHKの集金が不動産屋と組んでるんでしょうね、


一人暮らし始めたら来たんで、わけわからず払って、仕事で忙しいんでテレビ捨ててキャンセルしたら、

深夜2時にいたずら電話が1年間毎日かかってきてね、電話も止めましたよ、潰してやりたい。


ああ、そうだ、今願おう。「悪辣なNHKという存在よ、消えろ!」これで消えたはず。


で、マンガです。図書館では最近は漫画もあるんです。数は有名所だけ押さえてる少ない感じですけど。

で、出したのがこれです」


テーブルに出現した20冊ほどの単行本。


「これは世界一売れているコミック、「海賊大戦争」ですね。あれ、最終巻?完結してる!」


「ええ、数年後に完結するようです。出版年月によれば。この20冊は未来の本、です。

 図書館で借りて読んで、それから出版されていない分、これを読みふけっていました」


「私は興味ないですけど。読みたがる人は多いでしょうね」


「他の好きな漫画の本を出しては読んで消して。食事を出して。

で、二日過ごして、今日は3日目。こもってるのも飽きて。


この奇跡の力、これはどうしたらいいのか、私では使い方に困る。

信用できる相談相手はいないか、と知り合いに聞いたら、ここに相談しては?

と言われて。どうしたらいいんでしょう?」


「世のため人のために使うべきです!」


「というと?」


「常日頃思っていたんですが。この世には悪人が野放しになっていると思いませんか?」


「デスノート、ブラックエンジェルズ、ドーベルマン刑事、ハングマン、必殺仕事人、

宮本武蔵の般若野の決闘、悪人を殺すヒットラー、的なことですね」


「そうです」


「それはまあ賛成ですね」


「では人の多い駅前に行きませんか?」


「世直し、ですか。オーケイ!」



2 実行


私は中古車で彼と、隣のB市の駅前に移動した。

住んでいるA町は規模が小さくて人が少ないので。


バスターミナルと駅前。昼間。

40メートルほどだが、人の流れが途切れない場所。


態度の悪い人間は一目でわかる。

汚い声で叫ぶ、など威嚇・脅迫を日常的に行うからだ。


我々は、その光景を上から一望できる場所に位置した。


「ずばり、言いましょう。悪人を消去すべきです」


「確かに。ああいう連中には私も恨みがあります。

イジメが生きがいの悪党は害虫駆除すべきでしょう!」


汚い声で叫ぶガラの悪い若者2人。粋がって通行人をどかせる。


「あの二人、今叫んだ奴ら、消えろ!」小男が指を差し付ける。


バスを降りて駅に向かう、下を歩くチンピラ2匹がフッと消えた。


周りの人は「あれ?」という怪訝な表情で立ち止まった。


「消えたのを見た人は不思議に思わないように。消えたことを忘れるように!」

私が言ったことを、小男は復唱した。


すると人々の流れは元に戻った。


そうして20分間に30人ほどを消滅させた。


小男

「これはキリが無い。このやり方では。暑い。日射病になる」


私「確かに。では試しに・・・地球全土において。常習的に軽犯罪を行っている者、

汚い叫び声、つばはき、ゴミのポイ捨て、糞放置、痴漢、脅迫など、

そして重犯罪者、これらの者は全員、消えろ、と」


小男は復唱した。「さあ、これらに当てはまる者は地獄に行ってしまえ!」


眼下に200人ほど見えていた内の3割、60人ほどが消えた。


そしてもちろん、1セットの言葉、

「消えるのを見ても不思議に思わないように」と復唱させる。


ガン!と追突事故が5箇所ほど起きていた。

運転中に消えたらしい。



3 急展開



私の車で、元の町役場に向かった。運転中の車内。


私「これはすばらしい力です」


小男「悪人消去については、賛成です。他の使い方が難しいですが」


私「何でもできる。ミャンマーの軍事政権、中国の香港問題、北朝鮮とか韓国の卑劣な脅迫」


小男「ちょっと、新聞記事が正しいとは限りませんよ」



私の通信端末に緊急メッセージが流れた。


「臨時ニュースです。アメリカが中国、ロシア、北朝鮮、イラン、

 アフガニスタンの首都に核ミサイルを打ち込みました。


 妖術による攻撃を受けて当然の対抗処置である、とアメリカは発表しています。

 なおロシアからは反撃の核ミサイル群がアメリカに向けて発射されました!」


私は左に寄せて車を止めた。

2人は外に出た。広々とした道路。小高い場所。


私は頭をかきむしった。髪は、もう半分以上無いんだが。

「何て事だ!ええと、どうしたら?」


小男「核ミサイルを消滅させましょうか?」


私「ちょっと待って、ええと、何でもできるんだから。

こういう場合は・・・考える時間が欲しい!


正確な、できるかぎり正確なデータを集めて判断を。

そのためには・・・・まず、時間を止めてくれ。

考える時間がほしいから」



小男

「では、時間よ、止まれ!・・・あれ?変わらない」


私「確かに。普通だ。無理な願いだったか・・・」


ゴオッ!風が強くなってきた。どんどん強く。

上空の雲の流れが速くなっていく。


小男「太陽が。動いていく!遠くになっていく!」


今は正午過ぎぐらい。

天の中央にある太陽が、北西方向に移動して遠ざかる。

東から昇って西に沈むはずの太陽が軌道を変えている!

光が弱く、暗くなっていく。風がますます強く。


地平から上がって来た小さい球体が太陽方向へ向かっていく。


私「あれは月だ、ということは・・・」


東空に見えてきた赤い球体が空を横切って北西方向へ。

そしてブラウンの巨大球体、続いて輪のある球体も同じ軌道を動いていく。


小男「太陽系の惑星が移動していく!なぜ?」


「違う、こっちが、地球が止まってるんだ!

宇宙はビッグバンから始まって膨張し続けていることで時間が流れている。

そういう説がある。それを止めたから・・・」


暗くなっていく。太陽光が届きにくくなって夕方の状態。

天王星らしき球体が地球の空を横切っていく。


息が白くなる。気温が下がっている!


ゴオオッ!

私「寒くなってきた!このままじゃ地球が凍りつくぞ、何とかしないと」


小男「キャンセルだ、今のは無し!・・・ダメだ、変わらない」


強風で吹っ飛んできた乗用車が、ぶつかってくる!


地面に伏せる二人。乗ってきた車にぶつかって2台は空へ巻き上げられていく。


私「街路樹をつかんで!」


二人は別の街路樹にしがみついて飛ばされるのを防ぐ。

体が上に持ち上げられていく。


私「くっ!こうなったら!やむを得ない!奇跡の力を無くすように願ってください!

 あなたが3日前の朝、奇跡の力を授かったことをキャンセルするんです、

 その時間からやり直すんです!つまりリセットを!」


小男は叫んでいるが、強風と寒波、薄くなった空気、暗闇でよく聞こえない。


私がつかんでいる街路樹が根元から引っこ抜ける。


「うわああああっ!」

私は真っ暗な空中を巻き上げられていき、意識を失った・・・・



4 再び相談



私はボランティアで地域相談役をしている。


そして地元のA町の町民センターで悩み事相談係。


猫の放し飼いが迷惑、とか、敷地争い、騒音、とか喧嘩の仲裁が多い。

たいていは相互不可侵条約、お互いに無視する、話もしない、を提案。


猫についてはペットOKのマンションを紹介する。手数料はもちろん貰わない。


ゴミを他人の家に入れて嫌がらせする病的な気違いは、証拠を動画撮影して警察に逮捕してもらった。


悪人が山ほど野放しになっている異常な社会。なぜ警官は悪人を銃殺しないのか?


私が尊敬してるのは豹仮面グイン、銀河大戦争のヤン・ウエスト、狼上明(アダルトの方)など

正義の味方。


地球人全員人格チェックで品格によりSABCDに分けて軽重犯罪者のCDを殺す悪人削除法を

何とか成立させられないか?


ドローンにオーラ識別装置とレーザー光線銃を付けて大量生産して、機械獣、ジオン軍ザク、

ミクロイドの昆虫ロボット、タイガー戦車、アンドロ軍団のように活用できないか?


そういった妄想を抱きつつ、退屈な人生相談トラブルを扱っている・・・

私の人生ははっきり言って楽しくない。苦しい。


おもしろい相談相手は来てくれないだろうか?


この貧相だが実直そうな小男はどんな話だろう?


小男

「あの、実は・・・」



5 来訪者



小男

「実は私は幽霊にとりつかれていて困ってるんです。

 3日前の朝からです。声が時々聞こえてきて」


私「それは妖怪寺の住職さんに相談した方が。

 あの人は実際に霊力を持っていますから」


小男「ええ、そうしたんです。するとその人がこちらを紹介してくれて」


「そうなんですか。では話を伺いましょう」


「今、この場でも声が聞こえていて・・・私の肩に手を置いてもらえませんか?

 するとあなたにも聞こえるそうです」


私は疑いつつ小男の肩に手を置いた。すると。


テーブルの横に、ジェダイの長老服を着たエルフ男が出現した。


「やあ、私は銀河連盟の評議員パラバ。これは立体映像。

実際に町民センターにいるわけではない」


私「・・・そ、そうですか。それでいったい宇宙人の人が町民センターに

 何の御用でしょう? ホワイトハウスかクレムリンか、

 (日本の)国会議事堂の方にいらしては?

 映像とは言っても本当にいるように見えるので」


パラバ「いや、君に会いに来た。まずは記憶を戻そう」


私と小男「・・・・・!!」


パラバ「彼が奇跡の力、創世能力を持ったのは、次元タクシーにはねられて事故死したからだ。

 魂が。その場合の規定に従って彼の精神を保全した。すると我々の脳波に同調してしまった。


 彼の体にくっついている表層精神は、我々と同じ創世能力を使えるようになった。

 すると君たちは、さっそく地球を壊してくれたな。管理物件なのに。

 

 地球は神の育成実験場の1つだ。人間は、2千年ごとに大量破壊兵器を作っては戦争で文明を破壊する、

 トカゲ脳の低級生物だが。レベルで言うとC。軽犯罪者。銀河連盟にとうてい迎えられない。


 今回もワープ航法を発見する前に文明を破壊するかどうか検討中だ。


 さて、修理屋君、頼むよ」


「どうもー、次元修理屋のギャフです!」

作業員らしき服装の軽い態度の若者が出現。


「この姿は現住民にわかりやすいようにコーデネイトされた姿です。

 では修理にかかります」姿を消す。


カン、カン、カン、と金づちの音だけが響く。


ギャフが現れる。

「はい、OKです。修理完了。ああ、お二人とは時間の流れが違うので

 すぐ終わったように感じられるでしょうけど。

 奇跡の力が使えるかどうか試してください」


小男「では。昼飯時ですから。えーと、スパゲティよ、出ろ!」

テーブルを指差す。何も起きない。


バラバ「奇跡の力は無くなった。用は済んだ。ではこれでごきげんよう」


バラバと修理屋が消えた。



「「・・・・・・・・」」

私と小男は呆然として椅子に座っていた。


小男「・・・とにかく幽霊はいなくなった、という事ですね。

 私が奇跡の力を使えていたとは。ここに来るまで今回は

 力は使えなかったですよ」


私「バラバと修理屋が手を打っていたんでしょうね。

 それにしても・・・私の世界楽園化計画が一度は達成されていたとは!

 アメリカめ、なぜ異常に気づいたんだ!そのせいでワヤクチャになってしまった!」


小男「次元タクシーが他の生き物をはねるって結構多く起こってるのかも。

 地球でも自動車事故で死傷者が膨大な数、出てるのに問題にされないのと同じで」


私「被害者は「精神を保全」とやらを、されたらエスパーになってしまう、か。

 アメリカにはそういう超能力者がいて、異常に気づいたか?」


小男「モーゼやキリストも、次元タクシーにはねられただけかも」


私「ううむ・・・・」


小男「とにかく私の悩みは。

幽霊の件も、奇跡の力の件も解決しました。

 ありがとうございます」


私「いえ、私が解決したわけではないですし」


小男「でもとにかくお世話になりました。ではこれで失礼します」


私「あ、はい、お疲れ様でした」



手本はH・G・ウェルズ「奇跡を起こせた男」、

「ウルトラマンオーブ第一話」怪鳥・空中戦の話、

新井素子「絶句」。


パラバは「スターウォーズ」のパルパティーン議長から。


時間が止まった場合の、この状況はオリジナル、私の創作。

このパターンは無かったと思う。


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