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始業前の教室 3

「マジかよ?!」


「嘘だろ?!」


「私たちの綾城さんが……」


 クラスメイト達は思い思いに嘆き、教室全体がどよめいた。その騒ぎは近くのクラスにも伝播し、廊下にも人が集まっていた。


「いやいやいやいや!ちょっと待って!付き合ってないから!」


 俺はここ一番だと思い、周囲のざわつきに負けないくらいの大声を出した。ここで声を上げないとおかしなことになりそうだったからだ。


「知らない人もいるかもしれないけど、確かに俺とシオリは仲が良い。それは事実だ。かといって別に付き合ってるわけじゃないから。仲が良いからこその冗談だって。だろ?シオリ?でもちょっと悪ふざけが過ぎるんじゃないか?」


 それ以外に考えられない。目的はわからないが今は訂正するしかない。


「なんで……なんでそういうこと言うの?」


「え?」


 シオリは俺が思っていたのとは違う反応を示した。さっきまでの笑顔はなくなり、悲しそうな表情をしている。その表情を見た人は無条件で胸が苦しくなるだろう。


「私たち付き合ってるんじゃないの?コウタ君……告白してくれたじゃん」


 告白なんてした覚えがないのだが、最早言い出せない空気になっていた。


「もしかして嫌いになったの?それとも私と付き合ってるのが恥ずかしいの?嬉しかったのって私だけ?」


 ついにシオリの頬をキラリと光るものが伝った。それを見て、悪ふざけや冗談ではなく、本気で言っているということを理解した。理解したからこそ、より一層混乱する。


「嫌いとか恥ずかしいとかじゃなくて……ちなみに告白っていつのことだっけ?」


「……一昨日のことだよ……帰り道にいきなり言われて……いきなりだったけどすごい嬉しかったのに……もう忘れたの?」


 確かに一昨日は一緒に帰った。けど特にそんな会話はしてないはず。少なくとも俺の記憶にはない。記憶にあるのは月の話をした時の様子が変だったくらいだ。でもさすがにそれは関係ないよな……。

 俺が思い出しているところを涙目で見つめるシオリ。ぐすん、とすすり泣く仕草は胸を締め付けられる。そう感じているのは俺だけではなかった。


「おい伊坂!とぼけるのもいい加減にしろ!」


「そうよ!綾城さんを泣かせたら私たちが許さない」


「ていうか綾城さんにここまで言われて認めないって何様なの?」


 やばい、と思った時にはすでに遅く、俺の予感は的中した。

 シオリが付き合っているという情報にショックを受けている人も多いが、悲しむ姿を見てシオリの味方をする人が徐々に増えている。学校一の人気者というだけあって男女の偏りもなく、あっという間に周りは俺の敵となった。逆に俺の味方をしてくれる人はいるはずもなく、アンナでさえ呆然としていた。


「違うんだって!本当に……」


 途中で言葉が詰まった。いくら言葉を選んだところで、否定するのであれば集中砲火をくらうだろう。下手なことを言えばクラスだけではなく、学校中の生徒を敵に回すことになる。そうなったら俺の高校生活はおしまいだ。


「もうすぐホームルーム始まるし曖昧な部分もあるから一旦この話は終わろう。これは俺とシオリの問題だから後で二人で話すことにしよ。シオリもこれでいいよな」


「……私一人が舞い上がってただけだったんだね……もういいよ……どうせ振られるんでしょ……振るなら今振ってよ……それで……おしまいにするから」


 ここでそんなことしたら俺の高校生活が終わってしまうだろ……。

 その証拠に俺に向けてのやじは収まらない。

 普通だったら悩まなくてもいいことだ。シオリと付き合えるというのは身に覚えが無くても嬉しいことだろう。俺も嬉しくないわけではないのだが、俺には俺の事情があって、恋愛には消極的になっている。付き合う付き合わないを抜きにして、もう少し時間をかけて向き合いたいというのが俺の本音だ。

 だが、今はそんな悠長なことを言っている暇はない。この状況を乗り切るには俺の気持ちを無視するしかない。


「ごめん」


「ほらやっぱり……」


「違うんだって。俺が間違えてたっていうか、あの時の告白が伝わったのかどうかわかんなくて、付き合ってるのかも曖昧だったから、みんなの前で言っていいのか迷って思わず否定しちゃったんだよ」


 誤解を生んだ原因は定かではないが、俺の言動の何か告白と捉えられたのは間違いないようだ。こうなってしまった以上、話を合わせるしかない。


「だから振るわけじゃなくて、よかったらこれからも仲良くしてほしい」


「……どうせ友達として……でしょ?」


 この空間において俺の回答は一つしかなかった。


「もちろん、恋人として。シオリさえよかったら付き合ってくれないか?」

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