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昼休みの校舎横ベンチ 4

「アンナの気持ちは嬉しい……けどごめん……きっかけはどうあれ、俺はシオリと付き合うって決めたから……すれ違いから始まったけど、軽い気持ちで返事をしたわけじゃないんだ。だからアンナとは付き合えない」


 これが俺なりに精一杯考えた上で出した答えだった。これが正解かどうかはわからない。自分では誠実だと思っていても、第三者や受け取り側からしたら不誠実なのかもしれない。ただ、横で口を抑えて嬉しそうにしているシオリを見たら間違いではないのだと思えた。何より、ここで都合良く乗り換えるような真似をしたらあいつと同じになってしまう。

 俯くアンナを見ると胸が痛むが、下手に気を遣うと余計傷つけてしまいそうだったのでグッと堪えた。


「そっか……伊坂っちがそう言うなら仕方ないよね」


「アンナ……」


「でも諦めるわけじゃないから!」


 バッと顔を上げ勢いよく立ち上がると、アンナは俺とシオリ正面に立った。


「付き合うって決まった以上、伊坂っちが簡単に心変わりするとは最初から思ってなかったよ。そういうとこも好きだしね。それに私だって一回振られただけで諦めるほど軽い気持ちじゃないよ。付き合ってみてやっぱり合いませんでした、なんてよくある話だし、時間が経ってからやっぱり綾城さんより私の方が好きって気づくかもしれないしね。あ、言っとくけど気まずいからって理由で友達じゃなくなるなんてあり得ないから。むしろ全部打ち明けたんだからこれからはもっと積極的にアプローチするつもりだから覚悟しといてよね」


 綾城に対する宣戦布告ともとれるアンナの大胆な宣言を聞いて、不覚にもドキッとしてしまった。落ち込むどころか言いたいことを言って清々しい表情のアンナは「じゃあまた教室で」と先に戻ってしまった。


「行っちゃったな。あのさ、誤解してほしくないから聞いて―――ってうわぁ!」


 後腐れのないように説明しようとしたらシオリが勢いよく抱きついてきた。


「いきなりどうしたんだよ?」


「嬉しかったの。コウタ君が私の彼女って言ってくれて。自分ではそのつもりだったけど、本当は不安だったから。私、いつもコウタ君と楽しそうに話す柴里さんに嫉妬してて、もしかしたら柴里さんの方に行っちゃうんじゃないかって思って。だからコウタ君から選んでもらえて本当に嬉しかった。柴里さんには悪いけど私とコウタ君の相性は良いに決まってる。別れるなんてあり得ない。コウタ君、好き、大好き。これからもずっとよろしくね」


 シオリのハグの力強さからどれだけ不安だったのか伝わってくる。申し訳ない反面、それが愛おしく思えて、気持ちを伝えるように俺もそっと手を添えた。


「不安にさせてごめん。俺もシオリにそう言ってもらえて嬉しいよ。こちらこそよろしくな」


 本当は俺も力強く抱き返したかったのだが、それが出来なかったのは少し引っ掛かるところがあったから。

 シオリは「順序とか関係なく」と言っていたが、もしシオリより先にアンナから告白されていたら―――

 あくまでこれは結果論であって、今言うべきことではないと、そっと心の奥にしまい込んだ。

 今回のことで俺はまだシオリと向き合えていないということに気づかされた。これからは俺の方からも寄り添っていこう、そう心に決めたところで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

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