放課後の体育館 3
「べ、別に心配してるわけじゃないわよ!……でも、何かあるんじゃないの?」
「……何もないよ。俺もいつまでもうじうじしてらんないからな。これをきっかけに―――」
「嘘よ。そんなのすぐにわかるわ。伊達にあんたと喧嘩してきたわけじゃないんだから。コウタのことは……私が一番……。とにかく言いなさいよ!」
「いや、でも、こればっかりは……」
「そんなに話したくないんだ……。私はコウタだったら大抵のことは話せるよ。普段は言い合ってばっかだけど、なんだかんだ信頼してる。でも、それって私だけだったのね……ちょっとショックだなー…」
チサキはうつむきながら溜め息を吐いた。
「そういう訳じゃなくて……」
前の彼女とのことを話したのはチサキだけ。それだけチサキのことは俺も信頼している。
「実は―――」
【ピーーーーー!】
休憩時間の終了を知らせるアラームが鳴った。切り替えが早い人はもうすでにコートに戻っている。
「実は?」
「続きはまた今度話すよ。今は練習に戻らないと」
寸前でチサキに相談したい気持ちを抑えた。チサキに話すよりも、まずはシオリと話し合わないといけない。
「……わかったわ」
そう言ってラケットを手に取りコートへ向かうチサキ。
「チサキ!」
肩をすぼめて丸くなった背中を見て、思わず呼び止めてしまった。
「何?」
「今は訳あって話せないけど、その内チサキには絶対話すから。だからその時は聞いてほしい。言っとくけど、俺だってチサキのことは信頼してるから」
口に出すのは恥ずかしいが、言った甲斐はあったようだ。曇っていたチサキの表情が晴れていく。
「キモいわよ。よくそんな恥ずかしいこと言えるわね」
「な、お前が先に言ったんだろ!」
「私のはあんたの秘密を聞き出す為の嘘だもーん」
「じゃあもう絶対言わねぇ」
「残念でしたー。もう遅いわよ。言ったわよね?『チサキには絶対話すから』って」
「こいつ馬鹿にしやがって」
チサキとの言い争いが始まる前に「早く練習再開しろ!」と指摘が入ったのでそそくさとコートに戻った。
練習中にコートでチサキと目が合うと、チサキはからかうようにベーっと舌を出して挑発してきた。その様子が憎たらしい反面、可愛いなとも思ってしまった。
今日の帰り道、シオリと話さないといけない。
隣では仕切りネットを挟んで女バスが練習している。シオリは目立つので、練習の最中でもすぐに見つけられた。その時、シオリも俺の方を見ていたように思えたのは気のせいか。




