一歩目
「―――らぁ!」
アークは駆け抜け、左手に持った剣を振り抜く。
その気迫とは裏腹に嫌悪振り方は素人そのもの。いきなりの出来事に一瞬呆気にとられた男でも何とか回避できるものだった。
とはいえ、男たちも混乱の中にあった。
理不尽な選択に、アークが答えを出せない。―――想定内だ。
我武者羅になったアークが、破れかぶれに反抗してくる。―――それも想定内だ。
だが、剣を虚空より生み出し子供とは思えない速度で切り掛かってくる。―――そんなこと想像だにしてなかった。
歯向かってきたアークを軽くひねりつぶし、精神的に追い詰めるはずだった。なのに、なぜ、こっちの命まで賭ける羽目になる!
子供がただ滅茶苦茶に振り回しているだけだが、紅く染まった60センチほどの刃は人一人の命を奪うことなど容易く成し遂げる。
だが、男たちもその腕っぷしで成り上がってきた者だ。『鋼斧藍獣』の中ではまだ高い階級とは言えないが、それでも決して無視できないだけの実績をその実力だけで勝ち取ってきた。
自分たちの命が天秤の片側に置かれたのを認識し……即座に動き出す。
すなわち、手加減なく殺す、と。
特に三人の中でもリーダー格の男はいち早く動き出した。剣を避けるとともに懐から小ぶりのナイフを取り出し、剣の重さに振り回され無防備になったアークを斬りつける。
一歩踏み込み、小さく振りかぶり、最速最短で剣を持った腕を斬り飛ばす。
瞬きの間にナイフはアークの肩に吸い込まれ、肉を裂き、骨を断ち通り抜ける。
殺った、と。そう感じた。だが、一瞬の後に違和感に気づく。ナイフに血がついていない。いや、ナイフだけじゃない。確かに肉を破ったというのに、その傷からは血の一滴もこぼれていない。
恐怖に支配され、思わず男はアークと距離を取る。
そして目に入ったのは、興味深そうにこちらを見つめる紅い瞳だった。
―――そう、まるで剣はそうやって振るんだ、と言わんばかりの。
怯える男を意に介さず、アークは何事もなかったかのように距離を詰め、その手にした剣を振るう。
一歩踏み込み、小さく振りかぶり、最速最短でその剣を振る。
切られたはずの左手で。先ほどとはまるで違う、熟達した剣筋で。
その剣は狙いあやまたず男の左肩に吸い込まれ。
その腕を根元から切り離した。
正直、主人公にそこまでチートを与えるつもりはなかったが、なぜか初期プロットを離れドンドン化け物になっていく……?




