からっぽなしょうねん
生まれてこの方、欲しいと思うものがない。少年は常々そう思っていた。
『もし使い切れないくらいたくさんの金貨を手にしたら、何をする?』そんな食うにも困る子供が、夢物語だと分かっていてもつい夢見てしまうそんな問いかけ。
腹いっぱいリンゴを食べる、お城を立てて豪華なドレスを着てお姫様になる、一生寝っ転がって遊んで生きる、めっちゃつえ―剣買ってめちゃ強くなる。
仲間が口々に自らの欲望を形にするのに、少年だけ何も言えなかった。
そんなにお金があったらこんなにひもじい思いしなくてもいいのにね、なんて場を茶化すのが精一杯だった。
本当は本当にどうでもよかったが。そんなにお金があっても何も欲しいものなんて思いつかない。自分の心は空っぽだ。自分の伸ばす手は何も掴まない。
何かを欲しいと思いたい。
だからこそ、からっぽな少年はココロを欲した。
少年は決して無欲なわけではなかった。ただ欲しいと思うものが少し人とズレていただけ。そう遠くない未来自らの心を見つけ、おのずと胸に夢を宿すこととなる―――はずだった。
だが、運命とは数奇なもの。
まさしく運命的な出会いを経て、少年の胸には夢ではなく炎が生まれる。それはやがて国を、世界を巻き込むほどの大きな潮流となり、全てを飲み込む。
少年は血に染まった刃を手に険しき道を行くことになる。
これは少年―――“アーク”が熱き想いを叶えるため、遥か彼方に手を伸ばし掴み取るまでの物語である。




