12 目覚め
キアラン視点
長いとは言えないが深く眠ったようだ、目覚めは悪くない。早くディアナの元に行きたいが、まずは食事だ。
階下の食堂に向かう際に、ルシィと行き会った。手にしたトレイには水差しやタオルが載っている。
訊けば、ディアナが目を覚ましたという。それならば、と同行しようとしたが、これから体を清めるので殿方は遠慮しろと言われてしまう。
仕方がない、終わった頃合いを見計らうかと考えていると、「朝食を済ませてからになさってください」と、しっかり念押しされてしまった。ソフィの指示が行き渡っているらしい。
用意された朝食はミルク粥だった。考えるまでもなくディアナの為に作られたものなのだろう。少々甘めの味付けだが、じんわりと胃に染み渡るような温かさだった。体調を確かめてからになるが、食欲があるようならディアナに持って行ってやろう。きっと喉が渇いているだろうから、なにかさっぱりとした果実もあった方がいいか。今時期だと何が旬であったろうか。つらつらと考えながら手早く食事を終えると、ディアナの元へと向かった。
ルシィと入れ替わるように私室に足を踏み入れれば、ベッドに身を起こしたディアナが迎えてくれた。
「おはようございます、お兄様」
すっかり顔色の良くなったディアナは落ち着いた様子で、内心安堵に胸をなでおろす。けれどその顔はどこか疲れたようにも見え、心なしか声も固いように思われる。鳴りを潜めたはずの昨夜の不安が頭をもたげる。いつものように朝の挨拶と共に軽く瞼に口づければ、体を預けてくるどころか身を強張らせている。
(どうしたというのだ…?)
両手で頬を包み、額を合わせてみると、確かに熱は引いたようだ。けれど視線を合わせてはくれない。
「熱は下がったと聞いたけれど、まだ具合が悪そうだね?」
確かめるように掛布の上に投げ出された手に触れれば、指先がひやりと冷たい。熱は引いたが、まだ安心はできない。このまま握って温めてやりたいが、冷えているのは手だけではないのかもしれない。思い直して、掛布の中に手をしまう。そうしてから掛布ごとディアナを抱えるように抱き込んだ。
「具合が悪いなら無理をしてはいけないよ、ゆっくり休んで……」
言いかけたところで、ディアナが身を震わせた。やはり寒いのだろうか、そう問いかけても返事もせずに身を縮こまらせている。寒いのならばと、一層深く抱き込んで安心させるように囁きかける。
「ほら、こうしていれば温かいよ」
抱きしめているうちに徐々にディアナの体温が上がっていく。後ろから見える頬には赤みが差し、耳まで赤くなってきた。どうしたというのだろう、様子がおかしい。やはり具合が、と問いかけようとしたところで…
キュウ…クルルル…
可愛らしいお腹の音に思わず笑いがこぼれる。恨めしそうな目で私を見上げるディアナだが、そんな顔をしても可愛いだけだと思う。食堂に行こうとするディアナをベッドに留め、代わりに食堂へと向かう。先ほど厨房には頼んでおいたので、準備は整っているだろう。ミルク粥と果物のほかに、何かディアナの好きな紅茶を…と思ったところで、悲鳴にも似たディアナの声が耳に届く。
弾かれたように身を翻し、今来たばかりの廊下を駆け戻った。
短いですが、切りがいいので… 収まりが悪くて分けた部分を本日夕方に投稿します。