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とあるダンジョンの探索記  作者: アイネコ
第三章、人々の暮らし
99/206

感謝祭

ジェフリーサイドを終わらせようと、書いていたら4000文字越えてました。

分けるのもなんなので、そのままの投稿です。





 パレードも終了し、人々が日常へと戻ろうとした時、アリアが歌いだす。


 それは甲高くも美しい声色で、涼やかな景色を連想させるメロディーで歌っている。



 神の祝福というこの歌は、人々に恩恵をもたらすものである。



『ああ我が子らよ、汝らに祝福あれ。 試練の時がくるその日まで、このゆりかごに育まれ。 その身に恩恵を与えたもう。 そして、強くあれ、試練に向かう、その時まで。 我が子らの繁栄に、幸多かれと願うものなり』



 神々の言語で歌われるも、その慈愛に触れた人々は陶然となる。


 そして、アリアの祝福の歌を聴く人々は、その胸に熱く火を灯す。



『女神アリアの祝福により、スキルを与える』



 唐突に、頭の中で響く声で、人々は現実に引き戻された。 



「「「えっ!? 今のなに?」」」

「「「ぐっ! か、からだが……」」」

「「「うっ! あ、あたまが……」」」


 突然起こった自身の変化に戸惑う者、そして体の変化について行けずに崩れ落ちる者、また目眩や頭痛に耐えられずに這いつくばる者すら出始め、さながら阿鼻叫喚の様相となっていた。



「ちょっ!? 何をしたんですか!?」


「えっ? あ、あの、皆さんに祝福をと思いまして……」

「は、はは…… やってくれましたよ、このウッカリ女神さまは! もう、少しはちゃんと考えて下さい!」


 仁の怒りに、アリアは言い淀んでしまった。


「ご、ごめんなさい……」


 仁は即座に詠唱を開始する。


「……、『エリアヒーリング』」


 中級光魔法の『エリアヒーリング』は、中央広場を一瞬にして光で埋めつくす。


 戸惑う者、苦痛に悶える者、頭を抱えてうずくまる者たちは、光に包まれ次第に落ち着きを取り戻していく。



「ふぅ、これでよし…… アリアさま、もう勝手なことは控えてくれませんか?」


「はい、反省します」

「まあまあ、勇者殿。 アリアさまも良かれとして、祝福を我らに施して下さったのです。 ここは儂らに免じて、許して下さらぬか」


「「お願いします」」


 カルロスやサリア、そしてマリエルらに、アリアをイジメないでと云わんばかり顔で仁は責められる。


「わ、分かりました。 分かりましたよ、もう…… アリアさまも、何時までもイジケテいないで、もう怒って居ませんから。 次、次に行きますよ。 まったく……」



 不承不承としながら、仁は次に控えたイベントへと準備を開始する。



 ★ ☆ ★



 人々の容体も改善し、お礼を言われたが丁重に返答を返して、次のイベント告知と準備にはいる。


 夕刻より、王城の物質を解放して、神々への感謝を捧げる宴を開催する。


 王国が催す感謝祭とあって、人々は喜び夕刻までの用事を済ませようと急いで帰っていった。


 ジェフリーを始め王族メンバーは一旦お城へと戻り、食材や酒を運搬し始める。


 その間、仁は厨房設備を設置していき、食材などを置く場所を確保する。


 その準備を、手際良くさばく姿を近隣の住人に見られてしまい、子供たちが集まってきた。



「ゆうしゃさまー、お料理するの?」

「ん? お料理はお城のコックさんが作るんだよ」


 食材が運ばれて来れば、城から調理人たちが料理を作る手配は出来ている。


「ふーん、ゆうしゃさまのお料理たべたかったなぁ」

「コックさんたちじゃダメなのかな?」


「お父さんが、ゆうしゃさまのつくるお料理がおいしいって、言ってたの」

「へぇ、お嬢ちゃんのお父さんはお城の人なんだ」


「そう、おしろでコックさんしてるのー」

「そっかぁ、コックさんだったかあ、それじゃあ後で何か作ってみようかな」


「ホント? わーい、楽しみ一」

「うん、何が良いのかな?」


「えっとねぇ、かれえ……??」


「ん? カレーライスかな?」

「うん、カレーライスがたべたいのー」


(カレーライスを知ってるという事は、料理長のお子さんか)


「それじゃあ、またくるねー」

「ん、またな」


 子供たちはかれーってなんだ? と言いながら、料理長の娘さんと帰っていった。



 王城から食材や酒が運び込まれ、料理長を始め調理人たちも到着し、感謝祭の準備が始まった。


 仁も、アリアやマリエルと合流し、子供たちのカレーライスを作り始めた。



「うわぁ、本当に厨房が出来ているわ」

「まあ、マジックバッグと作成でちょちょいのちょいですよ」


「仁さまも何か作るのですか?」

「ええ、子供たちにリクエストが在りましてね。 カレーライスが食べたいと、作ることにしました。」


「あら、カレーを作るのですか? 私もお手伝いします。 カルロスやジェフリーに作って上げたいの」

「ふむ、良いですよ。 それじゃあ始めますか」


「「はい」」


 こうして仁達もカレーを作り始めたのだが、完成を待たずにして人だかりが出来てしまい、子供たちの分は王城でも作るハメとなってしまった。


 カレーのスパイシーな香りに釣られ、近隣住民が集まり大騒ぎとなり、急遽炊き出しを開始して騒動を回避した訳だが、感謝祭が始まってもいない内に、カレーライスは無くなってしまったのである。


 恐るべしはカレーの魔力。


 あれよあれよと無くなり、100人分の量では足りなかったのであった。



 ☆ ★ ☆



「うーん、失敗だったな」

「ええ、あんなに来るとは思いませんでしたわ」

「そうですね」


 夕刻になり、チラホラと人々がやってくる。


「そろそろジェフリー様達も呼びますか」

「そうですね、お願いします」


「はい、アリアさまはここで人払いをお願いしますね。 ついでにカレーも持って来ますんで」

「分かりました。 ここはお任せ下さい」


 仁はテントに入り、王城内へと転移する。



 ◇ ◆ ◇



 王城に転移した仁は、カルロス達の部屋のとなり、何時もの転移部屋へと到着する。


「カルロス様、いらっしゃいますか?」


 カルロスの自室の扉をノックすると、すぐに返事が返ってきた。


「ん、仁殿か、ちょっと待ってくれるか……」


 しばらく待つと、サリアが顔をだした。


「どうかしましたか?」

「ええ、カルロスが少し変なのです」


「失礼しますね。 ……? 少し痩せましたか?」

「うむ、そんな筈は無いと思うが、どうも服が合わんのだよ」


「んー、ちょっと鑑定しますが、よろしいですか?」

「ん、宜しく頼む」


 鑑定すると、カルロスの新たなステータスとスキルが現れていた。



 カルロス・エルトランド Lv8

 王族

 HP:108/108

 MP: 74/74

 STR:16

 VIT:16

 DEX:10

 AGI:10

 INT:24

 MND:24

 LUK:32

 スキル

 通常:健康体new、火魔法Lv1

 戦闘:片手剣Lv2

 加護:神々の加護(状態異常・精神異常無効)

 称号:孤独な王さま

 


「なるほど、カルロス様に新しいスキルが生えていました。 『健康体』というスキルで、おそらく余分な脂肪が無くなったのだと思います」


 仁はスキルを分析し、カルロスへと伝える。


「ん? 余分な脂肪?」

「はい、要するに、ぜい肉がそがれ体が健康になるといった感じかと」


「あらまあ、良かったわねカルロス。 長生き出来そうね」

「うむ、だが既に長生きしてるのだ。 そこそこ健康であればそれで十分じゃよ」


 どうやらアリアの祝福により、スキルが生えてきたと思い、仁はカルロスの衣服のサイズを直した。



 ◇ ◆ ◇



「ジェフリー様、もう良いですよね」


「ん、ングング。 はあ、ご馳走様。 すまんな、ちょっと小腹が空いてな。 助かった」

「まあ良いですけど、カルロス様達も行きますよ。 サリアさまも待ってますし」


「う″ ん…… ング。 はあ、うまいのう。 すまんな、我慢出来んかったわ」

「いえ、では行きましょう」


 執務室にいたジェフリーを連れて、カレーを回収したのだが匂いに釣られ、我慢出来なくなったカルロス親子が、ひと皿カレーを所望したので、用意したのだが予想外の大盛りで、本気食いを見せられ呆れてしまう、仁とサリアであった。



 ◇ ◆ ◇



「ふう、やっと戻って来ました」

「ああ、仁さま。 良かった、材料が足りないのです」


 仁がテントから外に出ると、アリアが待ちかまえていた。


「ん? なんじゃ、どういう事だ?」

「あ、カルロス。 大変なの、カレーがもう無いのよ。 材料も無くなってしまうし、それでも人がずっと待ってて大変なの」


 マリエルがカレーが入っていたであろう、寸胴を抱えて中を見せる。


「ああ、こりゃダメだ。 まったく足らんな」

「うーん、もう一度作らんとダメかなこりゃ」


 ジェフリーも事態を把握し、仁も諦め新たに作らねば、暴動になりかねないと結論に達した。



「はーい、お待たせしましたー」


「おーい、こっちにもくれー」

「少々お待ちをー」


「こちら二人前です。 お待たせしましたー」

「ん、ありがとう」


「はあ、忙しい。 誰か変わってー」

「無理だしー、こっちも手一杯だしー」


「助っ人きたよー」

「「「おお!」」」


 こんな感じで、既に三時間が経過していた。


 あれから材料をかき集め、もう手作業すら諦めた仁は、スキルを使いカレーを量産した。


 次に足りなくなった米も、白のダンジョンの備蓄に手を付け、大盤振る舞いの様相に突入し、カレーと米が足りたと思えば、次は人手が足りぬとなり、王城のメイド隊を呼び出し、現状のような戦場となったのである。


「こりゃ、感謝祭じゃなくカレー祭りじゃな。 ハッハッハ」

「父上、笑い事じゃないですよ。 これだと、他の料理が無駄になってしまいます」


 カレーライスを食べたいと、長蛇の列が未だ途切れず、料理長を始め調理人達の料理が、そっくりそのまま残されているのである。


「ん? そりゃいかんな。 どうにかせんとな」

「大丈夫ですよ。 アイテムボックスがあるので、最悪しまえば料理は保管出来ます」


 仁が食材を回収している何時もの箱を取り出し説明をする。


「ふむ、傷んだりせんのか?」

「ええ、箱の中の時が止まっているので大丈夫ですし、温めれば問題ありません。 なんなら引き取って、配下の者達に食べさせれば、消費は出来ますね」


 カルロスはアイテムボックスを観察しては、仁にお強請りをする。


「ほう、そりゃ便利じゃな。 カーラにも在るんかのう?」

「幾つか店に在るので、設置為れば使えますよ」


「ん? 仁殿。 王城にも欲しいのだが良いかな?」

「分かりました。 後日持ってきます」


「ん、宜しく頼む」


 ジェフリーにもアイテムボックスの納品を約束して、仁は賑やかな場所へと視線を移す。


「しかし、感謝祭はまた今度ですね」

「そうじゃな」

「誰がカレーを頼んだのだ?」


「料理長の娘さんですかね」

「「あ、なるほど」」


 カレーライスを作った日、王城の厨房を使ったのだが、偶々やって来た料理長の目(正確には鼻)にとまり、根掘り葉掘り素材や作り方を聞かれ、スパイスが無い物もあり、同じ風味が出せないと後日に発覚し、料理長にスパイスをねだられたのだが、仁が居なかった事もあって、お蔵入りのレシピになっていたからである。


 恐るべしは、カレーの魔力。


 カレーの虜となった料理長の嘆きは、娘の一言で救われる事となったのである。




次回はマルスサイドですが、明日はお休みとさせて頂きます。



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