想いの行方
ジェフリーサイドもあと数話の予定です。
カルロス様がカーラの町を治め、ゆくゆくは領主として活躍して貰う手筈を整えねばと、仁は一度カーラの町に戻る事にした。
◇ ◆ ◇
「ただいまー。 ん? 誰も居ないとか、不用心だな。 まあ誰も悪さはしないだろうが店番はしないと、お客さんに悪いよな。 おーい、アイ居ないのかー」
「はーい、少々お待ちをー!」
「なんだ、居るじゃないか、補充か?」
店の奥からサチコが顔をだし、仁の顔をみて笑顔で応える。
「あ、お父さんお帰りなさい。 お城の方はもう良いの?」
「ああ、ひと段落したし、カルロス様がこの町にくるから、その下準備をしに来たんだ」
「へぇ、やっぱりマリエルさんの遺言を伝えたのね。 お父さんもマメだよね」
「まあ、大事にしたいと残されたんだ。 友好的な交流は大切にしないとな。 お前も友だちをつくれ、人としてな」
「はーい」
サチコは、仁の眷族となってからは吸精が不要となり、友だちをつくっても大丈夫なのだが、やはり人間と距離をおいていた。
仁はサチコに任せているが、最近は受け答えも慣れてきているし、出来れば友達をつくり、人と関わる仕事が出来ないかと考えていたのである。
☆ ★ ☆
「補充も出来たし、そろそろいくが何か欲しいものはあるか?」
「んー、プリンが食べたいかな」
「プリンて、まだまだ子供だな。 なら冷蔵庫に幾つか入れておくか」
「やったー、ありがとうお父さん、大好き」
サチコは仁に飛びつき、頬にキスをした。
「はいはい、あと数日は掛かるからな、留守を頼む」
「はーい、いってらっしゃい」
仁は台所に向かい、冷蔵庫にプリンを3つ入れて、裏口から酒場へと向かった。
◇ ◆ ◇
「こんにちは、マリーさん」
「あら、こんにちは。 久しぶりね、サトシさん」
仁は酒場のオーナー、マリーに声を掛ける。
「ええ、王都に行っていたもので」
「そうですか。 では、もうお願いはかなったのかしら」
「はい、『マリエル』さんは亡くなったとお伝えしました。 ロザリオもちゃんとサリアさまに渡しましたので、依頼は完了しました。 ですが、良いのですか? ちゃんと事情を話して会った方が良いのでは?」
「いいのよ、私はもう満足したから。 すべては貴方たちと会う為に仕組まれていたこと。 あのロザリオのお陰でもあるのよ」
マリーはにっこりと微笑み、何時もと変わらない口調で語る。
「う一む、病でしたら治せたのですが、申し訳ない」
「いいえ、私の天命ですから、気にしないでいいのよ」
仁はマリーに頭を下げて、酒場を後にする。
マリエルは開拓者として、この町にやって来た。
しかし、城からの追っ手はずっと彼女を狙ってきていたのだ。
当時、護衛の騎士も何名か付いてはいたが、度重なる襲撃であと二名となった時、一人の騎士がマリエルの身代わりとなり、マリエルの死亡を偽装したのである。
騎士たちは全員亡くなったが、その甲斐もあり、その後の追っ手は来なくなった。
だが、誤算が一つあったのだ。
身代わりとなった騎士は死亡し、代わりに騎士のふりをしていたマリエルが、呪いを受けてしまったのである。
その後、聖女のロザリオを所持していたせいか呪いも弱まり、10年掛けて町を興せたのだが、その姿は老婆となっていた。
仁達が接触した時点では、既に余命も数年の状態で、エリクサーによる治療はできたが、若干若返っただけで寿命は戻らなかった。
マリエルからの依頼は果たしたが、流石に寿命を縮めた呪いの解呪はできても、失った時間は戻らないのであった。
◇ ◆ ◇
マリーに報告をしたあと、仁は王城へと戻った。
「ジェフリー様、ちょっといいですか?」
仁は護衛の兵士をとなりにして、執務室の入り口で声を掛けた。
「ん? 仁殿か、かまわんよ。 お前たちは下がっておれ」
ジェフリーは仕事の手を止めて、人払いをしてくれた。
「ありがとうございます。 すみません、急に」
「ん、書き物をしていただけだ。 それよりも、急用ではないのか?」
仁は退室していく護衛やメイドたちに頭を下げてから、奥へと入室する。
「わざわざ、すみません」
「まあその顔を見てはな」
仁はいつになく、真面目な顔をしていた。
「ありがとうございます。 少々、云いにくい事がありまして、カルロス様が居ないこの時間を選びました」
「そうか、父上達には聞かせたくない話であったか」
「はい、実はですね……」
仁はことの経緯を詳しくジェフリーに話した。
「そうか、母上は生きていたのですね。 なるほど、もう余命も僅かであるのか……」
「はい、あと数カ月あるかないかです。 なので、こういってはなんですが、戴冠式を繰り上げて頂きたいのです」
「ほう…………、分かった善処しよう」
ジェフリーは目を閉じ考えてから、仁の考えを理解した。
「有難う御座います。 せめて最後だけは、悔いのない形で逝って欲しいです」
ジェフリーは真剣な面持ちで応える。
「良い、毎度面倒を掛けているし、親子揃って世話にもなっている。 私も母上には、ちゃんと王族として逝って貰わねば困る。 父上達には、内密に為ればいいのか?」
「はい、だまし討ちになりますが、責めは私にあるでしょう。 マリエルさまに依頼されたとはいえ、今後のことを考えると、蟠りが遺るのは、如何なものかと想います」
「有難いと想っている。 それだけに、母上の気持ちも、また父上達にもその想いは伝わっているはず。 本当に、仁殿には頭の下がる想いでいっぱいだ。 私達のみならず、人々の為にと色々と気遣って下さるその想いは、皆にも届いているはずだ。 王としてではなく、感謝申し上げる。 ありがとう」
ジェフリーは一人の人として、素直な言葉で感謝した。
ジェフリーのストーリーはもっと簡素にする予定でしたが、長々となってしまいました。
すべては私の暴走のせいです。
すみません。
明日3/9はお休みさせて貰います。
次回は、3/10(日)の予定です。




