王の悩みとマリエルの想い
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来週には、マルスサイドに…… 行けたらいいな(汗)
「なるほど、人員体制の不備ですか」
ジェフリーは、常日頃より抱えてきた問題を、仁に相談する事にした。
「ああ、父上の時もそうだが、肝心な時に致命的なことが起きてしまう。 何故、こうもすべき事を間違えるのかが分からん。 単純な命令すら間違えるしまつだしな」
「ふむ、ならば腹心と直属の隠密を配下に入れるといいですよ」
「腹心か……、難しいな、大臣では駄目なのか?」
「まあ、宰相あたりが腹心に望ましいと思うのでしょうが、まず忙しい仕事ですし、何かと企み事の多い立場なので、一物あれば大事になりますね。 ですので、あえて役職に付けずに、直言を以て諫めてくれる方を、側に置くことが肝要です」
「なるほど、貴族や騎士たちでなくても良さそうだな。 ふむ、後は隠密? 隠密とはなんだ?」
ジェフリーは聞き慣れない役職に、興味をもって問い掛ける。
「隠密とは、諜報員のようなもので、密命を以て様々な仕事を、主人に変わって遂行する人達の事をい云います。 調べ事や市中の情報収集、何かを内密に行う時には、専従させて任務を遂行させます。 専従のさせ方でも、色々と在るので通常の任務以外でも重宝できるかと思います」
「なるほど、密命か……」
「ですが、それなりに優秀な人でないと、任務達成は難しいでしょうね」
「ふむ、そうだな。 まずは人を育てないといけないな」
今のところ、優秀な部下を思い浮かべたが、ジェフリーの関わっている人材では、足りないと実感するだけであった。
「ええ、時間は掛かりますが、居るといないとでは、まったく違う結果となります。 私が遣っている配下に、サキュバスやインキュバスが居るのですが、かなりの成果を上げています。 隠密の仕事で、これ程の成果を上げた種族は居ません」
「サキュバスというと、淫魔ではないのか?」
「そうですね、一般的には淫魔ですが、本来は夢魔ですね。 種族適性での情報収集は的確で容易、そして何より夢魔なので、何処へでも侵入し、いともたやすく任務を熟します。 彼等の精神魔法を以て為れば、人では抗えないですしね」
「んー、いまいち納得いかんが、仁殿の実績で証明されていると云うわけだな……」
夢魔の有用性は理解出来たが、やはり淫魔として認識してしまうのである。
「まあモンスターですし、忌避感は仕方ないですね。 特に生殖活動は人に依存されてますし」
「ふむ、しかし、隠密としては欲しい処だが、無理であろうな」
改めて仁の事をダンジョンマスターで在ることを再認識する。
「そこは私が居る間はフォローしますよ」
「そうか、では仁殿に甘えるがよろしく頼む」
「はい、まだまだやるべき事は在りますので、此方こそよろしくお願いします」
「ん? やるべき事とはなんだ? 出きることがあれば、いって欲しいのだが」
「私が来た理由をお忘れですか? 人々の育成計画は、まだ始まったばかりなのですよ?」
「おお、そうで在ったな。 これはうっかりだったな。 ハッハッハ」
仁の嘘発覚ですっかり忘れていた事に気付き、笑いだすジェフリーであった。
◇ ◆ ◇
「調子は如何ですか?」
「うむ、すこぶる調子がええのう」
仁はジェフリーと別れ、カルロスの部屋へと来ていた。
「フフ、良かったですねサリアさま。 でも口調を改めないと、違和感が凄いですよカルロス様」
「そうですね。 せっかく若返ったのですし、しゃべり方くらい直さないと変ですわ」
「ほう、それもそうだな。 気をつけるとしよう」
「フフフ、その調子です」
カルロスも調子が良くなったので、今後の予定を話しあう。
「カルロス様には、カーラの町を治めて欲しいのですが、如何ですか?」
「ん、構わん……、構わないぞ。 如何してカーラの町なのか、教えて欲しいのだが」
「はい、カルロス様は、あの町の由縁をご存知ですか?」
「んー…… 分からんな。 何かあるのか?」
「ふむ、知らなかったのですか…… あの町は『カーラ』という開拓者が興した町なのは知ってますよね。 実は、あの町は『マリエル・カーラント』様が興した町なのです」
「なんと! それは真か!?」
カルロスは席から立ち上がり、サリアは口に手をあて目を見開いて驚いていた。
「ええ、町の由来を調べた時、ちょうど話を聞いた方がマリエル様のお付きの方だったのです。 まだ町の酒場で働いていますし、お会いする事も出来ますよ」
「…………、マリエルはどうなったか分からんのか?」
「残念ですが、町を興した2年後に病で亡くなったそうです」
「そうか……、先に逝ってしもうたか」
「マリエル、ごめんね…… 私のせいよね」
サリアは、胸の前で手をあわせて俯いた。
「サリアさま、それは違いますよ。 彼女は最後までカルロス様の為に働き、生きていくつもりだったと聞いています。 少なくとも、サリアさまを恨んだりはしていません。 これを見て下さい」
仁はサリアの手を取り、マリエルの遺品を握らせた。
「これは、わたしのですね……」
「ええ、マリエル様の成人のおりに、貴方が彼女に贈ったロザリオですよ」
サリアはロザリオを両手で抱き、無言でポロポロと涙を零し始める。
そんなサリアの姿を見たカルロスは、彼女に寄り添い、包み込むように抱き寄せた。
「マリエルごめんなさい、私は……」
「大丈夫、マリエルなら分かってくれる。 だから、儂も一緒に泣こう。 マリエルの想いは、儂らが継ぐ。 そして、カーラントの名も儂らが継いでいくとしようぞ」
カルロスの胸のなかでサリアは泣きながら何度も肯き、カルロスも泣きながらマリエルの想いに誓うのであった。




