王城から去る人々
中々に難しく、ジェフリーサイドはまだまだ続きそうです。
「お…… なさい」
「ん、ん……、ん? ここは?」
サリア・エルトランドは目覚めた。
だが、目覚めた先は何処までも白く、それでいてガランとした空間であった。
ただ、あるのは装飾された大きな机と椅子、そして、その前にある小さな机と椅子があるだけだった。
「サリア・エルトランド、これより貴方の査問を行います。 まずはお掛けなさい」
サリアは何が起きてるか分からないまま、目の前にある椅子へと座った。
よく見ると、目の前にはひとりの女性が座っていた。
(綺麗な女性、でも誰も居なかったはず……)
「あの、ここは何処ですか?」
「ここは『精神と時の狭間』例えるならば、神域に最も近い場所です」
「わ、私は死んだのですか?」
「いえ、まだ生きてはいます。 ただ、現在の貴方の体は以前とは違い、直ぐに戻ることはおすすめ出来ません」
「えっ? それは……」
「理由なのですが、貴方はここ35年程、淫魔に取り憑かれていた上に、国や王族に対し謀反を行いました」
サリアは、謂われの無い罪に怯えだす。
「な、何故そんなことを……、私は何も覚えてないのですが」
「分かっています。 ですので、今から貴方の査問を開始します。 正直に話すよう、お願いします。 もし、虚偽の類いを答えると、その分の量刑が増える場合があるので、気を付けて答えるように」
「えっ? は、はい……」
サリアは、思わず返事をしてしまったが、未だに何が起きたのかも分からずにいた。
「では、『サリア・エルトランド』のエルトランド王国、『国王暗殺計画』に関する査問を開始します。 私は一級神ゼノスの娘、アリアです。 宜しくお願いします」
「はい……」
(いっきゅうしん……? いったい、何が起きてるの?)
アリアは机に、事件に関する資料を揃えると、改めてサリアを観察する。
「何が起きているか、分からないとは思いますが、貴方は今の時点で、正直に答えるだけで良いのです。 焦らず、ゆっくり考えてから答えなさい。 良いですね?」
微笑むアリアに諭され、サリアは少しだけホッとする。
「はい、ありがとうございます。 えっと、よろしくお願いします」
「では、始めます。 まずは……」
こうして、サリ・エルトランドの『国王暗殺計画』に関する査問が開始されるのであった。
◇ ◆ ◇
サリアが王城から居なくなり、3日が過ぎた。
「母上はまだ見つからんのか?」
「はっ! 全力で捜索をしておりますが、手掛かりすら掴めて居りません」
「バカもん!! 既に3日だぞ、貴様らは何をやっているんだ!」
現国王アルフレッド・エルトランドは、兵士長を呼びつけ激昂していた。
◇ ◆ ◇
「どういう事だ、何故手掛かりすら掴めんのだ?」
「兄上、いい加減落ち着いて下さい。 こういう時こそ王として、威厳を保たねば、誰もが不安に成りますぞ」
玉座の間でうろうろとするアルフレッドをアレックスが諫める。
「だがな、母上が居なくなった途端、叔父上も登城しない上に、近衛やメイド達も次々と辞めて居るんだぞ? 如何して落ち着けと言える? 警備も城内も、既に半数の人員が居なくなったんだぞ!」
サリアが行方不明となり、ダニエルすら登城しなくなると、淫魔の呪縛が解けはじめ、正常に成りつつ在るのだが、それが分からずにいるだけである。
「そうですね。 いったい何が起きて居るのやら……」
王城から人が次々と居なくなり、不安を募らせる愚王と、呑気な王弟であった。
◇ ◆ ◇
ダニエルの屋敷では、ここ数日間慌ただしくあった。
「まだか、早く支度をしろ、そして、ここから逃げるのだ」
ダニエルは、夜逃げの支度を急がせていた。
「よし、必要な物はすべて積んだな。 では、行くぞ」
「あなた、これをどうぞ」
ダニエルは急いでいたが、奥方から書状を渡された。
「なんだこんな時に……、これは?」
「離縁状です。 私はここに残りますので、あなただけでも何処へなりとも行けば良いのです」
「な、なんだと、お前までも儂を裏切るのか!」
ダニエルは、奥方の歯に衣着せぬ言葉で激昂する。
「はあ……、そういう処が駄目なのです。 王妃どころか、メイドにまで手を出していたのは分かって居りました。 サリア様もお隠れになった事ですし、お父様にも帰ってこいと云われてますので、あなたとはここでお別れ致します」
ダニエルは、痛いところを突かれ、奥方の離縁状を握り潰した。
「くっ…… お前たち行くぞ、出発だ! …………、どうした、早う馬車をださんか!」
馬車に乗り込んだが、一向に動かず外を見ると、屋敷に長年仕えている執事が立っていた。
「旦那様、私共も奥様方について行く事になりましたので、ここでお暇させて頂きます。 長い間、有難う御座いました」
老齢の執事だったが、背筋を正し過不足もない礼にて別れを告げた。
「なんだと! どいつもこいつも、儂を馬鹿にしおって! 誰がこの馬車を走らすのだ! くそっ! もうよい儂だけでも逃げ切って見せるわ!」
御者台へ移ろうと、ダニエルが馬車から降りると、そこには見たことのある人物が待っていた。
「あんたは馬鹿ですか? 余計な行動をするなと、言ってあっただろう?」
仁の姿を見て、ダニエルは竦み上がり、すべてを諦めた。
「す、済みませんでした……」




