元凶
まだまだジェフリー……
「サチコ、準備はいいか?」
「はい、既に警備兵などは排除しました」
「ん、お疲れさん。 では行きましょうか」
「うむ、宜しく頼む」
仁達はカルロスを連れて、夜の王城へと来ていた。
今後の活動に対し、『ダニエル』と『サリア』に警告を告げる為であった。
◇ ◆ ◇
「えーっと、こっちか?」
「はい、そこの右奥の部屋ですね」
仁は扉の前に立ち、ひと呼吸付けてから扉を開け放つ。
「こんばんは! 『ダニエル』様は、いらっしゃいますか?」
仁がベッドに向かって声を掛けると、数名のメイドが衣服を抱えながら、部屋から飛び出していった。
「なっ!? 無礼者! 誰が入室を許可したっ!?」
「ん、儂だよ。 久しいのう、相変わらず盛んで何よりだ」
仁の後から入室して来た、カルロスが答える。
「カ、カルロスだと、やはり生きて居ったか!?」
「久しぶりのご対面を邪魔してアレですが……、宰相ダニエル、『国家反逆』の罪により、貴様の『罪状を告げ』にやって来た。 心して聞くがよい!」
仁が罪状を読み上げようと書簡を出すと、ダニエルは激昂する。
「なんだと!? 貴様! 誰に向かって『国家反逆』などとほざ……」
「黙れっ!! このお方は畏れ多くも『神の使徒』である『勇者』様であるぞ!」
「ちょっ!? カルロス様、バラさないで下さい」
「な、なんだと、『勇者』だと……」
グダリつつも罪状と理由、その他諸々の証拠を並べ、断罪に関しての『警告』を告げる。
「以上、今夜はこの後、元王妃『サリア』にも同様の『警告』をせねばならない。 また後日に改めて来るまでは、余計な行動を謹むように。 最後に、何か言いたいことはあるか?」
「…………けるな、何が神の使徒だ! 儂を誰だと思っておるっ!!」
「き、貴様! この後に及んで」
カルロスがダニエルに詰め寄り、激昂した処で背後の威圧を感じとる。
仁の顔から感情が消え去り、その身から、光のオーラが立ち上る。
「ひいっ!?」
ダニエルは小さな悲鳴を上げて、床に崩れ落ちる。
「他にあるか?」
「ありません……」
能面のような表情をしている仁が問うと、ダニエルは怯えて呟くように答えた。
仁の威圧ですっかり大人しくなったダニエルだったが、カルロスは改めて『神の使徒』の力を認識する。
神の偉大さは、その畏怖にも宿っているのだと。
◇ ◆ ◇
「さ、次は元王妃です。 さっさと済ませましょう」
「えっ? あ、はい」
「ん? どうかしましたか?」
カルロスは仁の変わりように、戸惑ってしまった。
「ヒトシ様の豹変に、戸惑っていらっしゃるのでは?」
カルロスは、サチコの推察に同意する。
「え?ええ、先程のダニエルへの威圧は、私に向けられたもので無くても、流石に背筋に冷たいものが走りました」
「ああ、すみません。 少し、イラッとしたので無意識でした」
「む、無意識ですか」
仁は『またか』と思い、頭を掻きつつ説明を始める。
「ええ、昂ぶると時折なにかが入って来るんですよ、恐らく神界の神々が観ているのでしょう」
「なっ!? アレを神々は観ていらしたのですか?」
「まあ、我々の行動に興味があるらしく、私の目を通して観ているんですよ」
仁が苦笑いを浮かべ説明すると、カルロスの顔は引きつっていた。
◇ ◆ ◇
サチコの先導で『サリア』の居る寝室へとたどり着く。
「ここです。 現在、精神魔法『スリープ』で眠らせてあります」
「ん? 眠らせているとはいったい……」
「ええ、少し問題があるもので」
「問題とは?」
「所謂、悪魔憑きと言う奴です」
「なんですと!?」
「しっ! お静かに」
サチコに注意され、サリアの寝室へと踏み込む。
◇ ◆ ◇
寝室に入ると、サリア以外は誰も居らず、サリア本人はベッド上でぐっすりと寝ている様子だった。
仁達が寝室に揃うと、サリアから闇が溢れ出した。
「何事だ!? こ、これは」
「落ち着いて下さい。 ただの闇ではないので、私の側から離れないで下さい」
「う、うむ……」
すると、ベッド上で寝ていたサリアがムクリと起き上がり、存在感が変わる。
「フハハハ、なるほど、神の使いか! 我の傀儡を眠らせて何をするのかと待っては居たが、まさか神の使い風情が来るとはな」
「やはり『スリープ』は効いていなかったか、だがこれは効くだろ?」
仁はサリアに、十字架を投げつけた。
「はっ、何を寄こすかと思えば、こんな物など十字架に過ぎんわ、バカめが」
サリアは受け取った十字架を、クルクルと回しほうり上げ、遊んでいる。
「そうか、存分に楽しんでくれ」
そう仁が言うより早く、十字架は光輝いた。
カッ!! と、一面が光りに溢れ、サリアは何も出来なくなった。
すると、今まで闇に覆われていた部屋は、次第に明るさを取り戻す。
「…………、っ!?」
「如何かな? 『聖なる光』のお味は」
「†‡¶§っ!! ※☆●◎◑!?」
「何を言ってるかは分からんが、言いたいことは分かる。 俺は一応勇者なんだよ。 申し訳ないが、お前は拘束させて貰う」
身動きの出来なくなったサリアを、仁は魔方陣を描いてその上に寝かせる。
仁は懐から布を取り出し、サリアに掛けると、その布にも魔方陣を描いた。
「よし、これで良い。 少し離れてくれるか」
「はい、カルロスさまも此方に」
「うむ、すまない」
サチコが誘導して仁から離れると、魔方陣からマナが溢れ出す。
「グギャーー!!」
「おお、強すぎた様だな。 すまない、生きて居たらまた会おう」
サリアに取り憑いていた悪魔は、退魔陣の中で絶叫し、サリアに掛かっていた布が輝きだす。
「うわぁ、痛そう……」
「だ、大丈夫なのか?」
「ええ、人には無害なので、大丈夫ですよ。 たぶん……」
「たぶんとか、ヒドイ」
「ハハ、何とかなるさ。 リザレクもあるしな」
「リザレクとは?」
「リザレクション、復活の魔方陣です」
「なっ! 復活ですと!?」
カルロスの驚愕は、部屋中に響いた。
★ ☆ ★
「ん、終わったか。 後はこれを封印すれば問題ない筈だ」
魔方陣の輝きが収まり、サリアに掛けていた布を回収し、その布を新たな布に包んでしまう。
「うっ……、痛い、ん……」
サリアは体の痛みに、覚醒しだす。
「ん、気付いたか…… 『ヒーリング』」
「おお、治癒魔法ですな」
すると、サリアは痛みから解放され、再び睡魔に呼び戻された。
「思ったより重症の様なので、彼女は連れて行きましょうか」
「うむ、了解した。 やっと、悪夢から解放されたと云うことか」
「そうですね。 しかし、彼女の罪は消えないでしょうね。 カルロス様も思うところはあるでしょうが、彼女の処遇は神々に委ねます」
「うむ、宜しく頼む。 出来れば寛大な裁きを願いたい……」
「私からも、神々に嘆願してみます」
こうして、ひとりの女性が長い悪夢から、解放されたのであった。
ジェフリーは居なかった。
すみません。




