仁の企み
少し遅れましたが、投下します。
ジェフリーのターンはまだ続きそうです。
仁の嘘が発覚して二日後、三度領主館へとやって来た。
「ああ、気が重い……」
「す、すみません、私のせいで……」
「いえ、何度も言いましたが、自業自得なので」
「そ、そんなにお嫌ですか?」
アリアの問いに、仁は顔をしかめてしまう。
「柄じゃないんですよ。 『勇者』とか、性格的に無理なんです。 どっちかといえば、鍛冶屋とか物づくりが好きなので、出来れば人が居ない僻地に行きたいです」
この世界に来てからすっかりインドア派に成りつつある仁は、心底引き籠もりたいと思っていた。
「はあ、仕方ない行きましょう」
「はい」
アリアを連れて、領主館の門を潜る仁であった。
◇ ◆ ◇
仁達が執務室に通されると、すでにカルロスとジェフリーが待ちかまえていた。
「おはようございます。 待たせてしまいましたか」
「いや、本来なら儂らが、そちらへ赴かねばならんので、こうして待っていたのです」
「そうです、神の使徒『勇者』様と、女神様を待たすなど以ての外です」
食事会が功を奏して、蟠りも溶けたが、その反面すっかり立場が逆転してしまったのである。
「ふぅ……、すみませんが、今まで通りの立場に戻して貰えませんか?」
こうなると分かってはいたが、仁は最後の足掻きを試みる。
「うーむ、しかし、神の御前で、今まで通りでは……」
「あの、私の事でしたら、今まで通り仁さまの伴侶としての方が嬉しく……」
「ちょっ!? アリア様!」
仁はアリアのぶっ込みに、叫んでしまった。
「なんと!? やはり、そうなのですね。 でしたら、尚更改めなければ成りませんね」
カルロスとジェフリーは、お互いを見やり納得するのであった。
(くっ、如何してくれようこの思い、いっそ消えてしまいたい……)
誰にも明かせぬ思いに、仁のチキンハートは悲鳴をあげていた。
★ ☆ ★
何とか逃げたい衝動を抑えた仁は、ジェフリーに今後の予定を変更する事を告げる。
「私の正体を隠すことは変えませんが、予定を前倒しにして、王城に居るバカ者どもを一掃します」
「なんと!? いよいよ奴らを討つのですね」
ジェフリーの激昂を仁は否定する。
「文字通り掃除をするのです。 要は追い出すのです」
「はい?」
仁の案はこうである。
どうせこのままでは反乱が起きてしまうので、ジェフリーとカルロスが扇動して、バカ親子をつるし上げてしまおうと云うことであった。
「儂を殺して、王位を継ぐ愚か者どもの顔を張り倒せと云うことか、なるほど面白い事になるな」
「ほう、そうなると仁殿の活躍はどうなるので?」
「え? そんなものは無いですよ。 ジェフリー様が主役ですし」
「いやいや、私より『勇者』様である仁殿が相応しいかと」
「うむ、全く以てその通り。『勇者』様の勇姿を見れば、誰もが賛同するに違いない」
どうあっても『勇者』に拘る親子を前に、仁は呆れる。
「あの、これは国盗りじゃなく、復権ですから、戦闘など起こしませんよ」
「え? どういう事ですか? 何を為さるおつもりですか?」
「そうですね、こんな感じの証拠も在るんです」
仁の手から渡された紙を受け取り、ジェフリーは顔をしかめ、カルロスが爆笑した。
その紙の表面には、宰相『ダニエル』と王妃『サリア』のⅹⅹ写真だった。
「ハッハッハ、いい歳をしおって、まだ盛って居ったのか、ハッハッハ」
「まあ、これをバラまけば一発でしょうね」
「なんと、それはどうなのだ? 継母上がちと不憫ではないのか?」
「でしたら、此方は如何します?」
今度は『ダニエルとメイド達』『サリアと騎士団員』とのⅹⅹ写真であった。
「な、なんという事だ! これでは獣と、いや、それ以下ではないか!!」
ジェフリーは写真を握り潰し、体は怒りに震えていた。
「そうですね。 こういった事をずっと繰り返していたのです。 容赦など為ずとも、既に周知の事実なのですよ」
国を傾かせる程、肉欲に溺れるバカには、ご退場して貰うのが筋であると諭す仁であった。
「くっくっく、あやつは変わらんのう、新しく入ってきた男は手当たり次第であったからのう……」
「父上は知っていたのですか……」
「うむ、でもな国を保つ為にも、あやつの家の力が必要で在ったからのう、今更ながら後悔しとるよ」
寂しげに、過去を語るカルロスであった。
★ ☆ ★
「どうですか?」
「ん、特に問題はないですな」
「これはまた、良いものを見られました。『マリエル』にもこの姿を見せてやりたかった」
「では問題が無ければ、これで行きましょう」
王都での活動に適した衣装をと、ジェフリーに王様らしく金糸銀糸で刺繍を施した衣服に見栄えの良いミスリルのブレストプレートを装着し、これもまた金糸銀糸で刺繍をした赤いマントを羽織らせて完成した。
「次はカルロス様ですね」
「儂はこのままでも構わんのでは?」
カルロスは、以前と変わりない衣服を好み、それはそれで王様らしいのだが、素材が木綿なので質素な感じが拭えない見栄えであった。
「駄目ですよ、ジェフリー様の父として相応しい衣服を着て貰いませんと、威厳が保てなく成ります。 何事も見た目は重要なのですよ」
「む、それもそうだな。 折角の息子の門出を汚すのは避けんとな」
こうして、カルロスの衣服も素材から仕立て直し、見た感じは以前と変わらぬ衣服でも、明らかに豪奢な見栄えへと変貌していた。
「ふむ、父上もまだまだ現役でいけるのではないですか?」
「うーむ、だがな今後の国を考えれば、やはり代替わりは必要じゃ。 それに儂は死んだことになってるおる。 これからは、お前たちの成長を見守ることにしよう」
カルロスの視線の先には、ジェフリーとその側で寄り添う、ひとりのメイドが居た。
「早う、孫の顔が見たいと思うのは、儂だけではない筈じゃ」
「なっ、父上。 私達はまだ……」
「分かって居る。 此度の件が終われば、誰も文句はない筈じゃ。 それに、その娘も満更でもないようだしの」
「ふむ、ウェディングドレスも必要ですね」
「なんと!? 仁殿まで……」
ハッハッハと、笑い声が部屋中に木霊し、ジェフリーとメイドが赤い顔で佇んでいた。
仁の心境は、この一件を早く終わらせ、通常に戻りたいという思いでいっぱいです。




